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16 降臨する闇の予兆

 次第に、その瞳の光が消えていく。

 だが、なおも血に飢えたかのような冷笑が、背筋を凍らせた。

「あの御方……将軍様は……すべての準備を終えられた……俺様は……その計画の……ほんの一部にすぎん……。」

 かすれる声が、まるで呪詛のように紡がれる。

「すぐに……貴様らは……本当の絶望を知ることになる……。」

 愛理は眉をひそめた。

 彼女の"精神感応"が、アザールの最期の感情をとらえていた。

 ──それは、単なる負け惜しみの挑発などではない。

 圧倒的な存在への、揺るぎなき忠誠と誇り──。

「真……彼の言葉、ただのハッタリじゃないかもしれない……。」

 愛理は低くつぶやきながら、銀色の双銃を強く握りしめる。

「……恐怖はなかった。ただ……奇妙なまでの忠誠と、何かを待ち望む期待だけがあった……。」

 リアの表情もまた険しかった。

 彼女の蒼い瞳は、アザールが消え去った方向をじっと見つめ、不安の色を帯びた声で呟く。

「魔王軍の計画は、私たちの想像以上に複雑なのかもしれない……。アザールはただの先鋒に過ぎない。もし彼ですら、あんな警告を残していったのなら……その先には、もっと恐ろしい敵が待ち受けているのかも……。」

 アザールの笑い声は、空気の中に溶けるように消えていき、彼の身体は完全なる虚無へと帰した。

 しかし、その不吉な予言の言葉だけは、まるで影のように三人の心に深く刻み込まれていた。

「……待っていろ……すぐにわかる……貴様らが直面する恐怖が……どれほどのものか……」

 戦場の空気が凍りついた。

 まるでアザールの最後の言葉がその場に染み込んだかのように、あたりは静寂に包まれ、目に見えない圧迫感がすべての者の心を締めつける。

 真一は拳を握りしめ、沈黙したまま、漠然とした不安を感じていた。

 この戦いの勝利は、決して安堵をもたらすものではなかった。むしろ、それはさらなる惨劇の幕開けに過ぎない――

 そんな予感が胸をよぎる。

「……どうやら、楽観視するわけにはいかないな。アザールは、まだ始まりに過ぎない。」

 低く絞り出すような声で呟く真一。その言葉には、静かながらも重い覚悟が滲んでいた。

 愛理とリアは互いに目を見交わし、黙ってうなずく。

 勝利の喜びなど、とうに消え去っていた。

 代わりに押し寄せてきたのは、より深く、重い危機感。

 暗雲はなおも晴れることなく、むしろさらに濃く、重く、彼らの心を覆い尽くそうとしていた。

 ――その時だった。

 突如、天空から轟音が鳴り響き、大地を揺るがすほどの震動が戦場を包み込んだ。

 空気がわずかに震え、遠方では暗雲が異様な速度で収束し、不吉な黒い気配が静かに目覚めようとしていた。

 魔王軍の悪魔たちは、その圧倒的な力を瞬時に察知し、一斉に動きを止める。

 そして、まるで畏れ敬うかのように、粛然と頭を垂れた。

 突如として訪れた異変に、真一たち冒険者は息を呑んだ。

 誰もが天空の奥へと目を向ける――

 そこには、何か恐ろしいものが降臨しようとしていた。

 そして、まさに予感が現実となる。

 吹き荒れる烈風、舞い上がる砂塵。

 黒き影が天より疾風のごとく舞い降り、戦場に激突する。

 轟音と衝撃が大地を震わせ、圧倒的な威圧感が辺りを支配した。

 やがて、舞い上がった塵が静かに晴れていく――

 そこに現れたのは、一人の長身の女悪魔。

 彼女の体躯はしなやかで鍛え抜かれており、深い紫色の波打つ髪が優雅に肩へとかかる。

 一部は精巧に結われ、その頭上には、小ぶりながらも鋭く威厳を放つ二本の悪魔の角が覗いていた。

 紅玉のような双眸は鋭く研ぎ澄まされ、まるであらゆるものを見透かし、人の魂すらも射抜くかのような眼差しを湛えている。

 黒に紫の縁取りが施された漆黒の鎧は、彼女の均整の取れた肢体を際立たせていた。密着する戦闘服が、その優雅さと圧倒的な力強さを同時に演出する。

 両手に纏った、魔法宝石が嵌め込まれた腕輪が、仄かに輝きを放った。

 まるで彼女の内に秘められた強大な魔力が、今にも解放されるのを待っているかのように――。

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