01 儚き平穏の中で咲く胸の鼓動
幾度となく生死をかけた戦いを乗り越え、蓮華城はついに束の間の平穏を迎えた。
街には陽の光が降り注ぎ、初秋の爽やかな風が心地よく吹き抜ける。
真一、愛理、そしてリアは高台に立ち、徐々に活気を取り戻しつつある街並みを静かに見下ろしていた。
「こんなに早く日常が戻るなんて思わなかったわ。」
愛理は軽やかに言いながら、そよ風に揺れる明るい茶色のツインテールをなびかせる。
そして、いたずらっぽく真一をちらりと見て、口元に微かな笑みを浮かべた。
「でも、この平和、そんなに長くは続かないと思うけど?」
真一はわずかに微笑み、優しさと決意のこもった目で前を見据える。
「そうだな。でも、せめて今だけは、少しゆっくりしよう。」
この平穏が長く続かないことは、彼もよく分かっていた。
次の危機はいつ訪れるか分からない。
それでも、今この瞬間だけは、大切にしたかった。
彼らのすぐ後ろで、リアは肩まで届く栗色の巻き髪を揺らしながら、少し不安げな表情を浮かべていた。
真一や愛理とは深い信頼で結ばれているものの、内向的な彼女は今もなお、自分の気持ちを素直に表すのが苦手だった。
「リア、大丈夫?」
真一の優しい声に、リアはハッとし、わずかに肩を震わせる。
そして、小さく首を振りながら、うつむいて囁いた。
「…ううん、なんでもない。」
彼の温かな視線をまっすぐに見ることができず、心臓がドキドキと高鳴る。
そんな彼女の様子を見て、愛理はくすっと笑い、そっとリアの腕を取りながら優しく引き寄せた。
「大丈夫だよ。私たちは家族でしょ?」
愛理の明るい笑顔に、リアの心は少しだけ落ち着きを取り戻す。
これまでの日々の中で、リアは今まで感じたことのない温もりを知った。
そして、ゆっくりと息を吐き、小さく呟く。
「…ありがとう。」
朝になると、真一は決まって訓練場で汗を流す。毎日欠かさず、黙々と鍛錬を重ねる彼の姿は、どこまでも真剣だった。鋭い動きで武器を振るうたびに、汗が決意に満ちた顔を伝い落ちる。
リアは少し離れた場所から、そんな彼をじっと見つめていた。
気づけば、心の奥に小さな波紋が広がっていく。
真一の強さ、優しさ、そして戦いに臨むときの冷静な判断力――それらすべてが、彼女の心を強く惹きつけていた。彼の姿を目にするたびに、胸の鼓動が少しずつ速くなる。
「リア、試してみるか?」
突然の真一の声に、リアは驚き、思わず息をのんだ。途端に頬が熱くなるのを感じ、慌てて首を振る。
「い、いいえ…私は大丈夫。」
かすかに震える声で答えながら、ぎゅっと服の裾を握りしめる。心臓の鼓動はまるで太鼓のように響き、彼の視線をまともに受け止めることができず、思わず顔を背けた。
それでも、この胸の奥で芽生え始めた感情が、日を追うごとに強くなっていることは、もう誤魔化せなかった。
夜が更け、真一と愛理はそれぞれの部屋へ戻った。
しかし、リアはまだ窓際に立ち、静かに夜風を感じていた。
そっと胸に手を当てる。
――さっきから、鼓動が速い。
彼女の心の奥で、小さな星のような感情が瞬いていた。
風に揺れる星の光を見つめながら、リアはそっと呟く。
「…真一くん…」
彼と過ごすうちに、リアの中に生まれた不思議な気持ち。
それが何なのか、彼女自身もまだはっきりとはわからなかった。
真一の強さ、優しさ、そして戦う姿——そのすべてが、リアの心に深く刻まれていた。
けれど、こんな気持ちになるのは初めてで、どうしたらいいのか分からない。
この感情は、いったい何なのだろう。
もしかしたら——
この胸の高鳴りは、時が経つほどにはっきりしていくのかもしれない……
皆さん、こんにちは! 本作もついに第3巻に突入しました! いつも読んでくれて本当にありがとうございます。楽しんでもらえたら嬉しいです!
今週から第4巻の第22章の執筆を始めました。ただ、月末が近づいてきて仕事が忙しくなり、さらに個人的な資産管理の用事もあって、一週間経ってもまだ書き終えていません。
今回の章では遺跡探検がメインで、さらに重大な秘密が明らかになります。どうぞお楽しみに!