表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/39

8 - 輝石が降り止まない夜

 伝令を受けたDEST(目的地)は更に都心部にあり、ここからそう遠くない。


「知ってるのか? そのリネン=ヒムとかいうヤツ」

「わたしより高位のセラフィムで、名はよく耳にする」

「茉莉花みたいにぶっきらぼうなヤツじゃなきゃいいな」

 

「崇高で美しいと聞く、わたしと異なるのは確かだ」

「ムッとしたのか? それか茉莉花でも怖いヤツなのか?」


「それは会えば解ることだ」 茉莉花たちは先を急いだ。


 数時間後、DEST付近に到着すると、徘徊する低級使者そこにはあからさまに周囲と様相が異なる雑居ビルがある。ビルの脇にある、ぽっかりと空いた2階への階段は氷塊の裂け目というべきか、そこはかとない凛然とした空隙(くうげき)が行く足を遠ざける。


「あの建物だ、中にいる」茉莉花はそこにセラフィムを感知していた。

 1階は店舗になっていたのであろう名残がみえる。雨に晒らされ剥がされた文字の痕から辛うじて店の名が読み取れ、シャッターが暫く下ろされたままなのは明らか。その直ぐ横にある2階への裂け目に歩み寄る。


 近づくと(たむろ)する者達が一斉に声を上げた。


「ここは立入禁止だ」異質な人の壁が茉莉花たちを阻む。

 モジュレーション系のエフェクトが掛けられている。ここに屯うのはそう、人ではない 6.0 haven の使者達だ。


「道を開けるんだ。わたしは、」

 そう言いかけた瞬間、犬が襲いかかってきた。クダチが瞬時に突進してくる犬にループをかけると、噛みつくことも出来ずそのまま走り去る。


 即断の茉莉花は右腕の袖を捲り上げると、一閃(いっせん)の瞬きから空間が歪むほどの熾火をその手に纏う。



挿絵(By みてみん)



挿絵(By みてみん)



 滅するは幻黒燈火(げんこくとうか)(かげ)り ────



挿絵(By みてみん)



 熾火に歪む収斂(しゅうれん)を目の当たりにした使者達は恐れ慄きその場にひれ伏した。それは焦点があった瞬間、その影だけを残し翳らせるものを焼尽させる セラフィム カラム=シェリム の鉄槌。


「おやめください セラフィムよ」無垢な声が響く。


「わたしはカラム=シェリム、ガブリエルの伝令を受けてここに来た」

「どうか熾火を鎮めて上にいらしてください」


 クダチが袖口から顔を出して茉莉花を見る。

「マズいんじゃないか?」

「上にあがってから判断する」と茉莉花

「上にあがってマズかったら」とクダチ


 使者が頭を下げて、その手は階段を指し示している。

「ここに残って私が戻ってこなければ判断してくれ」

「崇高で美しいって噂のヤツを見ずにか?」


 茉莉花の顔を見たクダチはそう言うしかなかった。勇猛でも怪訝(けげん)でも悲壮でもなく、ただ清廉(せいれん)とした表情が茉莉花をセラフィムたらしめていた。階段を上がると扉の前に立っている大男の使者が扉を開いて中へと手で誘導し、頭を下げた。



 部屋には何もなく、床の上に布だけ敷いてリネン=ヒムが横たわっていた。その身は朽ちつつも天を仰ぐその容貌は美しく、時が止まった瞬間を眺めているかの様に生けるものとの一線を画している。



「カラム=シェリムよ、私はここで潰える時を静かに過ごしています」


「貴方にいったい何が」



 私は幾多もの至然体を改修し、時に滅して【ZAIRIKU】へ叡智の糧とし捧げ、信仰の体系を堅持してきました。



 ですが、私が滅したのは使者だけではありません


 この世界に住まう人の数は年々減少し、今では使者の数は67%を超える状況。人の造った文明を維持するためにこの低次で日々活動しています。今となっては使者がいなければ文明は崩壊し、人の滅亡を加速させることでしょう。



 しかし、人は争いで人を殺め、使者を殺め、自らをも殺めます


 ある時、使者を殺めた人を目にしました。使者を死滅させまいと急いで幼生体を抜き出しました。しかしその者は私をも刃物で刺すと押し倒して馬乗りになり衣服を裂き、気が付けば私は


 その者の心の臓を


 ──── 掴み出していました



「その後、私は人が持つウイルスに侵された事に気づき、すぐさま御業でこの身を凍結してウイルスを消沈させはしましたが失ったものも多く、暫くすればこの身は潰えることでしょう」


 茉莉花は リネン=ヒム が見つめる部屋の端に吊るされたステンドグラスの飾りがついたサンキャッチャーに目をやった。



 さながら氷晶が零れだして、その煌めきを留めていられないかの様に光の粒が反射してサンキャッチャーは窓から溢れた街のネオンを部屋に導き入れていた。その中に一際、眩い光を集めている雫型のオーナメントがその表面に室内を映し込んでいた。



つづく



セラフィムは各々の個性ある御業を有していて其々に適した使命をZAIRIKUが与える。

『滅するは幻黒燈火の翳り』 茉莉花さんの熾火の御業です。


もとは『神の目の石』というもの見て着想を得ました、それが欲しかったのですが既に sold out になっていて手に入れることは叶いませんでした。色んな個体があってそれは、黒い炎が映り込んだ様に見える石でした。


投稿容量の関係で荒い画像になっていますが首謀者の手書きした幻黒灯火のスケッチはわたしのアニメ絵より決まっています。


『第2回SQEXノベル大賞』応募につき誤字脱字、言い回しの修正完了

※この話のイラスト差し替えについては後で考えたいと思います



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ