37話 繭
「――パラライズボアのボーナス経験値条件は牙を折ることよ!」
「ま、また状態異常系モンスターか……」
「私が手出ししたら経験値が折半される可能性もあるから絶対1人で倒すこと!死にそうになるまではなにもしないから」
「分かってる、よ!」
「……それにしても、このダンジョンのモンスターってなにか気持ち悪いわね」
同感。
出会うモンスターの全てが状態異常持ち。
そんなモンスターたちによるトラップも多く殺意が高い、ように思えるのだがそこから無理に攻めてきたりはしない。
ちぐはぐなモンスターたちの行動には気持ち悪いって言葉が似合いすぎる。
でもこれだけであれば厄介ではあるものの、普通のダンジョンの範囲内。
あんなに怪我人で溢れるようなものでもないような気がする。
それにあのアナウンスの言うイレギュラーに当てはまるとも思えない。
まだこのダンジョンにはなにかがある。
それは1階層だけじゃ分からないだろうし、レベルアップのことも考えればさっさと下に向かった方がいいかもな。
アダマンタイトクラスがどいつもこいつも1000レベル越えなら俺の今のレベルは駆け出しもいいところ。
そもそもレベルって上がる度に必要経験値も増える仕組みのはず……それなのに1000レベルに、しかも俺と同期で達成できてるってのがおかしく感じる。
それだけ上級のダンジョンは手強いってことなんだろうか?
「とにかく、こんなところで止まってられないってことに……変わりはない!」
「ぶ、も……」
『牙の破壊を確認しました。ボーナス経験値100000を取得しました』
猛スピードで突っ込んできたパラライズボアの牙を両手で受け止めると、俺はその勢いをも利用して牙を折った。
手に走る痺れは痛みからくるものじゃなく、名前の通りにもある麻痺が影響しているのだろう。
強力なものではないから問題なく戦闘はできるが……これだけで撤退する探索者も少なくはなさそうだ。
「……。これも問題なくクリアかぁ。順調すぎるとそれはそれで癪に触るわ。強いのは嬉しいんだけど……やっぱり私ってサディストなのかしら?助けを乞うところが見たい気もするのよね」
「悪いがそんな場面はやってこないさ。よし、あとはこいつを殺すだけ――」
『もっと強い人? なら、あなたも全力で……私のために働いてもらえる?』
「え?」
パラライズボアの身体を掴んだ瞬間だった。
アナウンスとは違う声が頭の中に響き……パラライズボアの口から勢いよく糸が吐き出されたのだ。
「これは!?」
「……。このモンスターはそんなスキル持ってないはずなんだけど……。ふむふむ……スキルの共有。状態異常は『強洗脳』ねぇ……。このダンジョンのボスってば大変仲間想いみたい」
慌てて距離をとるとパラライズボアはいっそう勢いを増させながら糸を吐き、自分の身体に巻きつけた。
そして糸で全身が包み込まれるとようやく静止。
これは……自分を守るための繭か?
アナウンスからして凶悪な攻撃を仕掛けてくるもんだと思ったが……。
「拍子抜けだったな」
「……その繭防御力30000以上あるわね。流石にこれは私が攻撃しないとかしら――」
めき。
「うん。問題なし。やっぱり拍子抜けだ」
「……。つまらないわね」
残念そうな美杉を横目に俺は繭を破っていく。
すると……。
「ぶ、も゛……。お゛っ!!」
「こいつ……」
低いうなり声。
俺の作った裂け目から腕を伸ばしたそいつはその手に持つ自身の牙を俺目掛けて突き出してきた。
「……進化ね。さっきの繭がその手助けをしたみたいだわ」
「進、化……」
「上級以上のダンジョンだと縄張り争いが熾烈で、そういった現象もしばしばあるけど……このクラスのダンジョンでは初めて。これは下の階層も現在進行形で難易度が跳ね上がっていると見た方がよさそうかもしれない……。これはあの子が思った通り異常事態って言っても状況だわ」
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