36話 【別視点】あれはモンスター
「――これは……思ったよりも酷いわね」
「これでも大分良くなったんですよ。毒、麻痺、火傷、脱水状態、手足には刺し傷、モンスターに喰われた痕もあって……」
「安いポーションだとどうしても全てを一気に治す、なんてできないものね」
「それが高いポーションでも同じ効果だったんです。プライバシー的にどうかとは思ったんですけど、状況が状況なので鑑定スキルを使って状態異常を見たところ回復阻害を受けているようで……」
「とことん最悪なモンスターね。そもそも低ランクの探索者は状態異常耐性のスキルを持ってることが少ないのに……。治療班の人たちの回復スキルも似たようなものなのよね?」
「状態異常に関してはそれ以下ですよ。あれ、スキルレベル上がりにくくて……。それと見て分かる通りこの糸が厄介で……。口元を塞がれてる探索者はまずポーションを飲ませるまでが遠いんですよ」
「糸で窒息させるつもり……というわけじゃないのね」
「殺すのを楽しむタイプのモンスターたちなのかもしれませんね。なんというか人間的で、モンスターらしくはないですけど」
「人間的、ね」
以前会った下着を剥ぎ取ってくれた盗賊とマジシャン。
その2人が搬送された探索者協会による探索者専用治療所を訪れると、中はてんやわんや。
たまたま居合わせた治療班の人も働き詰めなのか、表情に疲れが見える。
それにしても人間的ってことはやっぱりあの時の女の子が関与してる可能性が高いわよね。
だとすればモンスターを倒すだけじゃなくてその確保もしないといけない。
最悪の場合その子を罰さないといけないけど……その見定めが美すぎに任されるのはちょっと心配ね。
仕事だと思えば情け容赦ない人だから……。
「とにもかくにもこの糸が硬すぎるのが……ああもう! 苛々する!」
「お、落ち着いて! ……ってそんなに硬いの?」
「一応私レベル250のダイヤモンドクラスなんですけどこうやって力一杯引っ張って……なんとかずらせるかどうかです。武器を使っても断ち切るのは不可能でした。だから糸の除去は時間は掛かっていますが魔法使いの探索者さんが――」
「ちょっと私もいいかしら」
「え、ええ。でもアダマンタイトクラスの方でもこれは――」
ぶち。
「……確かに。切れはするけどこっちの手も切れるわね。スキルを使えばもっと簡単なんだろうけど……下手すれば糸と一緒に焼き殺すことになるかもよねぇ」
「す、凄い……。これがアダマンタイトクラス……」
「パワーだけなら私より凄い人だっているわ。それより……あなた、これで話せるようになったんじゃない?」
「はあはあはあ……。や、やっとまともに息が吸える」
「お久しぶりね。変態盗賊探索者さん」
「……。言っておきますけど、今回は俺たちも被害者ですよ。まさかあいつがあんなことになるなんて……」
「あいつ……やっぱりあの時の女の子が元凶なのね」
「あれはもう……女の子というか人間ですらないです」
「……どういうこと?理由は分からないけどただモンスターを使って暴れてるだけじゃないの?」
「洗脳スキルは暴走すると、あいつの欲望のままにモンスターが暴れだすだけだった。だけど今回はモンスターが強化されて……それだけじゃなくあいつ自身も欲望に洗脳されちまってるんですよ。止めるにあいつを殺すしかない、かもです……」
「……それはまずいわね」
「はい。あいつとあいつの洗脳してるモンスターは欲望を満たすため手段を選ばない。時間が経って、それを邪魔する奴らが増えれば、もっともっと強くなる可能性だってある。弱い探索者は今すぐ帰還させた方が――」
「そうじゃないの。いえ、それもまずいんだけど……美杉なら殺すちゃう。多分、容赦なく」
今の私と違ってなにかを得るためならなにかを簡単に諦められるそんな人間。
それが美杉涼香。
だから彼女はアダマンタイトクラスにもなれた、と思う。
「でも私は、諦めたくない……。急いで向かわないと、新ダンジョンに」
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