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35話 【別視点】いいな

「はあはあ……。へ、へへへ。前回はへましちまったけど今回は新ダンジョン。何がイレギュラーなのかもわかんねえ状態だ。思いっきり俺たちだけが稼ぎやすい環境を作ろうぜ」


「今度こそ金と経験値両方っすよね、リーダー」


「勿論勿論。前回は探索者たちから大量の経験値をもらう前に寄生型のモンスターがボスの洗脳を上書き……バーサーカーコボルトが雑魚モンスターを狩った分とあいつらを倒した分、これしか経験値は貰えなかったからな」


「どうせバレるんなら最初からボスにわんさかバーサーカーコボルトを産み出してもらえば良かったっすよね」


「たらればなんて言い出したらキリがねえよ。それにあのときはこいつのスキルがどれくらいの精度でそれができるかも分からなかっただろ?」


「それはそうっすけど……」


「だが今は全然、まったく違う。洗脳スキルはその精神状態に左右されるってことがこの前分かっただろ?つまりは、だ。こうして『恐怖』で縛り付けた今なら機械的に作業ができるはずだ」


「……。本当に大丈夫なんですかね?そもそもこれでスキルを使えるかどうかも怪しくないっすか?」


「視線さえ合わせられれば発動可能なはず。問題はないさ。そんじゃま早速下に下りてスキルを使ってもらおうぜ。おい!お前が大事に大事に世話してたこのモンスターを殺されたくなかったら大人しくスキルを発動させろよな」




「……」




 私はただ寂しかっただけ。


 それが拭えるならって、必死にみんなの力になろうと頑張って……。


 悪いことの手伝いだってした。



 それなのになんで……。


 いつもいつも周りの人たちは私を除け者にするの。


 私から大事なものを奪おうとするの……。




 口に詰め込まれた布のせいで嗚咽が漏れる。


 手足に巻かれた紐が食い込んで痛い。




 解放されたい。


 そう願ってるのに、この人たちは私を10階層に運んでいく。


 多分この先にいるのはボス。



 また洗脳させて特定のモンスターを増やさせるつもりなんだ……しかも、今度はそれに人まで襲わせようと……。


 洗脳したモンスターが得た経験値の半分くらいを貰える。


 それは私だけだったから、今まではこんなことにならなかった。



 でも盗賊のこの人はスキルでそんな私が得た経験値を盗める。



 だから私を簡単に捨てようとはしてくれない。



 すがりついて、誰かと一緒にいたいってあれだけ思ってた私の願いを、神様は残酷な形で聞き届けてくれたみたい。




「――しゅぅぅ……」


「こりゃ随分とグロテスクな相手だな……」



 10階層のボスは大きな蜘蛛。


 周りの小蜘蛛たちは子供?仲間どっちかは分からない。



 ただどっちも糸を吐き出す戦い方で、その強靭な糸はナイフをあてがっても切れそうにない。



 完全な火力不足。普通に戦えば私たちは勝てない。



 誰がどうみても洗脳は必須。


 だから私は敵と目を合わせてスキルを使わないと、言うことをきかせないといけないのに……蜘蛛たちはそれを嫌がったのかみんなで糸の中に隠れる。



「くそ! これじゃあスキルが通らねえ!」


「腹立つ戦いっすね」



 うん。こんな戦いかたをされたら鬱陶しいって思うのが普通。



 だけど私は不謹慎ながらに、いいなって思ってしまう。


 だってあのモンスターたちは寂しくない。


 信用できる仲間や家族がいて、安全なお家があって……。



 お母さん、お父さん、お兄ちゃん、私のせいでバラバラになった元パーティーメンバー。



 みんな……私やっぱりまだ寂しいよ。


 本当の仲間、友達に会いたい。



 それで……



「――ま、まさか……」


「またスキルの暴走っすか!?」


「多分な。だがいつもと様子が違う。それに洗脳スキルが視線を合わせなくても発動していることを考えると……ただの洗脳スキルじゃなさそうだ。一旦引く――」



 ――ぷしゅ。



「くああああああああああああ!!」


「リーダー!? おい! 洗脳スキルを解け!! モンスターは返すかっ……ら」




「――それ以外はいらないの」

お読みいただきありがとうございます。


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