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32話 やらかい

「――いってて……。まったくなんだってんだよ……ってここは、地上? まさか俺たちダンジョン外に叩き出されちまったのか? ちっ。まだ決着はついてねえってのに」


「てて……。あの人、案内って言うんだったらもっと丁寧に扱ってくれないかな」



 初級ダンジョンの時よりも乱暴に外にワープさせられた俺たち。



 ひらけてはいるけどまだ整備が完了していない、それでも人間は多くて賑わいのあるこの場所はあのアナウンスの言っていた通り新ダンジョンの入口らしい。



「それにしても人が多いな……。新ダンジョン、初踏破ってそれだけ美味いんだな。ただ……」



 これから探索に出ようとしている人、ここで商売をしている人、そして怪我を負い座り込んだり倒れこんだり、その治療に明け暮れている人……。



 認定証というシステムが働いているはずなのに痛々しい光景がそこには広がっていた。



 探索での怪我はあくまで個人の責任。


 助け合うことはあれど、可哀想なんて思う人はあまりいない。


 そのはずなのに、この場にはただならない悲壮感が漂っている。



 よくよく見れば探索者に今は様子を見た方がいいと言っている人がちらほらいる。



 アナウンスの言っていたイレギュラー……それが認定証を渡す探索者、それをもらった探索者のダンジョン難易度の予想を遙かに超える事態に発展しているのかもしれない。



「とはいえ俺だって踏破したばっかりで少しくらいは休みた――」


「あのさ、そろそろ退いてもらってもいい? それとも……そんなに私の身体に興味があるのかな?」


「え?」



 右手に柔らかい感触。


 少し力を加えただで潰れてしまいそうなそれは俺に焦燥感を募らせてしまう。



「す、すみませんでした!」


「……そんな拒絶されるみたいな反応されるのもそれはそれでショックだったりして」


「あ、あの……じゃあどうすれば」


「そうねえ、それじゃあ――」


「おい。あんまり後輩を困らせんじゃねえよ性悪女」


「あら、いたの血原。攻略最前線メンバー入りしなくなってから影が薄くなったんじゃない?」


「あ゛? てめえこそクエストをしてねえからか、全然見やしなかったじゃねえか。一時期に比べて覇気見たいのも感じねえ」


「最近はテレビとか雑誌取材とかいろいろ大変だったからねえ。でも血原より遙か上のアダマンタイトクラスにちゃあんといるわよ。ランクだってトップ30にいるし」


「あんな誰がどう決めてるかもわかんねえランキングに信憑性はねえだろ。それに……今ならお前とだってそこそこ戦えるかもなあ」


「……ふーん。それなりに強くなったんだ。でもまだまだ差はありそう。あんたってばその感情的になりやすい性格は直したほうがいいわよ」


「その見下すような態度、相変わらず腹が立つぜ。……まぁいい。それよりそいつにあんまり関わってくれるな。まだ俺との約束……認定証を渡せるか銅貨の判断が済んでねえんだ」


「約束、ねえ。珍しく他の探索者にご執心じゃな……ってあなたは」



 女性は血原と口喧嘩ともとれる会話をしていると俺の顔をじっと見つめてきた。



 血原と仲がいい? ってことはこの人も同期なんだろうけど……見覚えがあるようなないような。



「お、俺の顔に何かついてます?」


「ううん。でもそうか……面白いことになってきた」



 女性は薄っすら笑いを溢した。



 綺麗な人ではあるけど、どこか不気味だな。



「そ、その……」


「ああ、ごめんなさい。いや、あなたって今すっごく話題の人だからこんなところ、こんな状況で会えたのが……ちょっと臭い言い方すると運命なのかなって、思ってね。それがちょっと面白かったのよ」


「はぁ……。って俺が話題の人?」


「そうよ? もしかしてご存じじゃないの? こんなに周りに人が集まってるのもあなたがいるからなんだけど」


「え?」



 いつの間にか俺たちの周りには野次馬ができていた。


 これってこの女性じゃなくて、俺が目当てだっていうのか?



 はは……。俺みたいなシルバーランクが……そんなわけな――



「おい! まさかあのシルバーランクが新ダンジョンに挑戦するのか?」


「こりゃ面白くなってきな!」


「めっちゃ強いボスをシルバーランクが、なんてなったら快挙じゃない!」


「た、頼む。俺たちの仇を、いけすかねえ高ランクの奴らじゃなくてお前がとってくれ」



 ……。


 な、なんか好き勝手言ってる……。しかも明らかに俺に向けて……。



 一体ないがどうなってんだよ。



「あらあら、随分期待されてるじゃんあなた。実は私も今から新ダンジョンに向かうんだけど、一緒にどう?」


「おいちょっと待て! さきも言ったがそいつは……」


「強いのはもうみんな分かってること。これだけの再生回数があって血原が認定証を渡してないなんてなったら叩かれるのは当然血原、あなたになるんだけど」


「……150万回再生。もしかしてあの時助けた奴らが勝手にアップロードしやがったのか」



 女性が取り出したスマホに映っていたのは俺の戦う姿がでかでかと載った動画のサムネが印象的な動画。



 な、なんか再生回数だけじゃなく、コメント数も凄いことになってるんだが。



「というわけだからさっさと認定証を渡してくれる」


「ちっ。ほらよ」


「あ、ありがとうございます」



 血原は渋々といった様子で認定証をくれた。


 なんだかすっきりしない幕引きだけど、取り敢えず目的は達成……じゃない。



「じゃ、みんなの後押しもあるし早速新ダンジョンに向かいましょうか」


「ま、待ってください! 俺、まだクエストの報告をしないと」


「そんなの全部血原に任せればいいわ。認定証を渡す係りなら代理報告も可能なはずだから。ね、血原」


「……。ぜってえそいつに変なことすんなよ。そいつとはまだ勝負がついてねえだからよ」


「分かってる分かってる。そもそも私、誰に対しても変なことなんかしたことないし」


「……。そうかよ。おい、なにかあればこれを使え」


「転移のスクロール……。ボス部屋以外で使える高級品。血原、あんたってばどんだけこの人にご執心なの? もしかしてそっち――」


「ちげえ!! ちっ。気分が悪くなっちまった。俺はもう行く。……いいか、認定証は渡したが俺との勝負絶対に忘れんじゃねえぞ」



 そう言うと血原はその場を去って行った。



 というか俺新ダンジョンに行くこと決定なのか……。


 いやいやいや、全然準備できてないんだけど。休みたいんだけど!



「それじゃ行こうか……稲井君」


「はぁ。分かりまし……え?」



 完全に血原がその場からいなくなると、女性は手を引きながら俺の名前を発した。

お読みいただきありがとうございます。


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