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1話 覚醒

「は、はは……。流石に無茶しすぎたか」


「ぐるるる……」



 探索者としてダンジョンで稼ぐようになって早1年。



 同時期に受かった探索者は大体レベル150前後。


 黄金世代なんていわれて、十数以上点在する中でも攻略難易度【上級】を誇るダンジョンを次々に踏破。



 そんなか俺はというと……未だレベル5。


 もう30分くらい戦ってるのに目の前いるホーンウルフ、一般に雑魚ボスと認識されている相手に……1ダメージも負わせられていない。



「初級ダンジョンの、しかも中ボスでこの有様。そりゃあいつだって俺のことを見捨てるわな。……結婚、したかったなぁ」



 魔法使いだとか勇者だとか剣豪だとか……。


 始めてダンジョンに侵入する際人間は自動的にダンジョン独自のステータス、そして職業を付与される。



 大学時代から付き合っていたあいつは【戦姫】とかいうチート職業を付与され、俺はただただ握力が普通より少しだけ強いって特色しかない【グリッパー】という職業を付与された。



 最初こそあいつは伸びしろがあるかもしれないとか、そうやって励ましてくれてたりしてくれてたけどレベルの差はどんどんどんどん開いて……。



 結局レベルも稼ぎも低いまま、探索者コミュニティの笑われ者にすらなった俺は……あいつに婚約破棄された。



 それでも未練が残ってた俺は一か八かいつもより深い階層に潜って経験値が豊富って噂の金属スライム討伐を目論んでみたんだけど……。



「討伐どころかその階層にだって到達できなかった、と」


「ぐるるる……。があっ!!」


「つっ! もう脚が動かねえや」



 のっそりのっそりと距離を詰めてきていたホーンウルフだったが、俺の諦めた表情に気づいたのか唐突に足を早めた。



 だけどホーンウルフの爪や牙や角によってできた傷と疲労で俺の脚は動いてくれない。




 死。




 本能がそれを感じ取ったのか、俺の頭中はいろんな思い出で溢れかえり、目からは自然と涙が流れた。


 どうやらこれが走馬燈ってやつらしい。



 はは、いろいろ考えてんのに相手の動きがスローに見えやがる。



 本当に死ぬのか、俺。


 まだ27歳だってのに、親だって残してるのに、それにそれに……あの日以来あいつに会うことすら叶わないままなのに。




 すっ。




「え?」



 右手が、まるで自分のものじゃないように動き出した。


 突然のことに変な声が漏れて情けなく驚いてしまう。



 そして咄嗟に理解した。



 俺は笑われ者で、みっともなくて、レベルも低くて未練がましい奴で……良くも悪くも諦めるってことが性に合わない奴だってことが。



「がっあっ!?」


「くっ、ああああああ!!」



 俺の右手を貫いたホーンウルフの角、それが身体まで届かないように俺は貫かれた状態のまま捻じって捻って無理矢理掴んだ。



 血が滴って、激痛が走って、意識は失いそうになる。



 でも俺の行動が予想外だったのかホーンウルフは驚いた様子で動きを止めている。



「やるしかない、絶対に――」


「があっ!」


「こ、こいつっ!!」



 俺が空いていた左手を腰に提げてあるナイフまで伸ばそうとすると、ホーンウルフはそれをさせまいと角を少しだけ引いて改めて勢いづけた上で俺の身体を貫きに掛かった。


 あまりの勢いに俺は咄嗟に左手をナイフではなくホーンウルフの角まで伸ばす。


 するとなんとかホーンウルフのその進みを止めることができた。



 まさか人より握力が高くなるだけの職業【グリッパー】が活きるときがくるなんてな……。



 ただこうなったら左手は離せない。俺に攻撃の手段はなくなった。



 だから今できるのはひたすらにこの角を両手で力いっぱい握ってやって、ホーンウルフが諦めるまで待つこと。



 我慢できれば攻撃のチャンスは絶対にくる。耐えろ。耐えて耐えて耐えて……その喉をナイフで掻っ切ってやる。



「ぐ、がああ……」


「は、はは……。悪いな。俺はこんな状況だって諦められない欲深い人間なんだよ。だからお前がいくらぐりぐり角を前に動かそうとしようが無駄。俺は余計に力を込めるだけさ」



 状況を打開するためにあくまで角を引かず前に押し込もうとするホーンウルフ。


 だが俺はそんなホーンウルフをあざ笑うようにさらに強く角を握る。



 強く強く強く強く、痛かろうが血が出ようが意識が飛びそうになろうが強く――




『潜在する握力の最大値に到達しました。職業【グリッパー】が【ゴリラ】に覚醒しました。新たなステータスを獲得しました。またまもなくそれに相応しい新たな身体となります』




「……覚、醒?」




 ぱ、き。




 ダンジョン特有のアナウンスが脳内に響き渡った。


 そしてそれが終わったと同時に今度はホーンウルフの角から板チョコが割れた時のような心地いい音が奏でられた。

お読みいただきありがとうございます。

モチベーション維持のためブクマ、評価よろしくお願いします。

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