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口に入れた玉は飴玉のように小さくなることもなく、口の中で転がせば転がすほど甘さが広がり、幸せな気持ちにさせてくれる。
二人は頬を押さえて甘い玉を味わっていたが、その幸せな雰囲気をアルマの悲痛な声が吹き飛ばす。
「お兄ちゃん! 足が!?」
「足?」
アルマが指をさす自分の足下を見たアデルは思わず息を飲む。
「足が⁉」
いつの間にか自分たちの足下にたちこめていた霧にも驚くが、それ以上に自分の足が地面にめり込んでいることに驚く。
「アルマ、お前も⁉」
アデルに指をさされ、慌てて自分の足を見たアルマの顔が引きつる。
視線の先にある両足は足首まで地面に埋まっていて、身動きが取れなくなっていることに気がついた瞬間、アルマはバランスを崩し倒れてしまう。
パキンッとガラスが割れるような音がしてアルマは地面に手をつく。足が動くことに気がつき立ち上がろうとするが上手く立てずに再び倒れてしまう。
「あ、あぁぁぁぁ」
アルマが自分の腕を見て声にならない叫び声を上げる。
まるで陶器のように割れ砕けた自分の腕、そして足首から先がなくなっていることに気がつき悲鳴を上げる。
「アルマ!」
アデルが強引に足を前に進めると、バキッと音が響きアデルは足の自由と引き換えに倒れる。倒れる瞬間地面についた両手が砕けアデルは顔を打ちつける。
アデルの右目の視界にヒビが入る。
砕けた右半面の顔を地面につけたままアルマを見るが、アルマは砕けたアデルを見て甲高い悲鳴を上げ気絶してしまう。
思いっきり顔面から地面に打ち付けたアルマは、ガラスの割れる音をたて動かなくなる。心なしか凹んだ頭から生えた長い髪が地面に広がる。
「ア、アルマ……」
アデルが声を振り絞って出すと、唇にヒビが入りパラパラとはがれていく。
まだヒビの入っていない左目の視界に白い霧が盛り上がってできた人の形を成す。白い影のような人は目はないが視線をアデルに向ける。
『双子か珍しい』
何重にも反射して響く声は、耳から聞こえているのかはたまた頭の中で響ているのか定かではないが、確かに喋っていることはアデルには理解できた。
『この人間を使うか』
『ああ』
声がいつの間にか増え複数の視線が自分に向いていることを感じながらも、動くこともできないアデルは視線の先にある潰れて平たくなったアルマを見て涙を流す。
なぜこんなことになったのか、自分が洞窟に行こうなんて言わなければなんて後悔の言葉を口にすることも許されず、アデルは白い影に踏みつけられ砕け散る。
━━混ざった自分たちの半身を探して永遠をさ迷え。
存在するために留まった命を食え。
ダンジョンをくまなく探し問題があれば修正し、欠陥品のコアを食え。
見つかることない混ざっていない半身を混ざった体で求めろ。
それがお前の存在理由。我々のために存在しろ━━
━━僕は遠くで響いた声にうっすらと目を開ける。
酷く寒い。肌をさすような痛みで生を実感する。
遠くで暖かそうな光が揺らいでいる。
手を伸ばす。
届かないと思っていた光が目の前に来て、数人の人に抱えられる。
「おい、子供だ。なんでこんなところに」
「それよりも手当が先だ。おい、誰か毛布とか持っているか」
温かな声と手に包まれる。
「名前言えるか? おい、しっかりしろ」
「……探さなきゃ。大切なものが……」
僕の言葉に耳を傾けてくれたおじさんが、僕の目を見て驚いた顔をする。
「目の色が左右で違うのか、珍しいな。おっとそれよりも早く外に出るぞ」
そう言っておじさんは毛布に包まれた僕を抱きかかえて、ダンジョンをあとにする。
***
シルシエはダンジョンにある大きな木の上でゆっくりと左目を開ける。そのまま黒い瞳を動かし周囲を見渡す。
「助けられたときの夢なんて久しぶりに見た」
寝るために体を寄りかけていた大きなリュックを背負うと立ち上がり、下へと飛び降りる。
軽やかに着地したシルシエは右目の眼帯を押える。
「さてと、今日もなにか分からないけど、なにかを探そうかな」
そう呟いたシルシエはリュックを背負い直しダンジョン内を歩き始める。




