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 シルシエは左目で掲示板に貼ってある依頼書を見ていく。


「人探しに、落とし物……うーん今日はどれにしようかな」


 ふとシルシエの左目がある一枚の依頼書で止まる。


 他の依頼書に比べて紙は日に焼け薄い茶色になっていて、縁には朽ちて切れ目が入り、何度も画鋲に刺されて破れたのであろう角には、当て紙で補修した跡まである。


「んーと、なになに。お墓に供えする花を探しています。詳しくはププレ、南東サージ区間、四番の三三、マルコイ・ミナーラまでと」


 シルシエはその依頼書をじっと見つめたたまま、唇に人差し指を当てて考える。


「ずいぶんと悩んでるようですね?」


 背後から不意に声を掛けられ、シルシエが振り返ると、新しい依頼書を貼りに来たのであろう、手に紙を持った冒険者ギルドの職員の女性が立っていた。


「何か気になるご依頼がありましたか?」


 職員の女性に尋ねられたシルシエは、先程の依頼書を指差す。


「この依頼書。ずいぶんと年季が入ってますけど難しいんですか?」


 職員の女性は古びた依頼書を見て、「ああ」と短く声を出すと丁寧に依頼書を剥がしてシルシエに手渡す。


「その依頼書を貼ったのは三年前だったと思います。内容自体はある花を探してほしいとそこまで難しいものではないのですけど、その花がどこにあるのか誰も知らないので見つけることができないんです」


 説明してくれる職員の女性はどこか寂しそうに言う。


「この依頼主のマルコイさん。夫婦そろって冒険者で、ここププレにあるダンジョンプレヌールによく潜ってたんです。でもある日、奥様が一緒に潜ったグループが一人を除いて全員帰らぬ人になって、遺体も戻らず凄く落ち込んでいました。でも、三年前に突然その依頼書を持ってきて貼ってくれと言われ今に至るわけです」


 遠い目でどこか悲しそうに説明する職員の女性の話を聞いたシルシエは、再び依頼書に目を向け真剣な表情で見つめる。


「この依頼受けたいんですけど、手続きお願いしてもいいですか?」


「ええ、それは構いませんけど。その大丈夫ですか?」


 心配そうに尋ねる職員の女性にシルシエは屈託のない笑みを向ける。


「お話を聞くだけでも聞いてみたいですし、何よりも僕もこの花見てみたいですから」


 僅かの間何かを考える素振りを見せた職員の女性は、微笑みながら頷く。


「マルコイさんもあなたみたいな元気な探索者さんと話すだけでも気が紛れるかもしれませんね。最近ずっと思い詰めるような顔ばかりしてましたから。申し訳ないですけど、依頼お願いします」


「はい」


 再び見せるシルシエの屈託のない笑顔に職員の女性も嬉しそうに微笑んで依頼書を受け取り手続きに向かう。

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