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ダンジョンはダンジョンコアを中心にして生まれる。コアにも性格があって個性をもっていること、生きていることそれを人は知らない。なぜならば見たことがないからである。
それになによりもダンジョンがどうやってできたか? よりもダンジョンからなにが採れるか? の方が興味があるから知ろうとはしない。
知るのは昔、人であった者たちだけ。
だけどもその者たちは自分を知らない。
人が文明を築くその傍でダンジョンも進化していた。何百年前かは定かでないある日、山のふもとにダンジョンコアが生まれた。
小さなコアは必死に周囲の力を取り込み成長を繰り返し大きくなっていく。山の植物、土、動物や虫などから得た力を参考に自らの在り方を決める。
ある程度大きくなると、外から得る力では力が足りなくなって成長が頭打ちになる。
だから人を迎え入れる。人は色々奪っていくが、それ以上に色々与えてくれる。だから内側へと呼び込む。
ダンジョンコアは迷路のような空洞を作ると、地上に穴を作り入り口を作る。
生まれたばかりのダンジョンの前に二つの小さな影が立つ。金色の髪を持つ、顔がそっくりな二人は、同じ黒い瞳で山の斜面にある穴を見つめる。
一人が短髪の金色の髪をポリポリかくと穴を指さす。
「これが前に僕が見つけた洞窟だよ。明かりは持ってきたから入ってみようよ」
「えぇ……怖いよ」
長い金色の髪を後ろで結んだもう一人が嫌そうな顔で拒否する。
「アルマは怖がりだなぁ」
「私が怖がりじゃなくて、お兄ちゃんがガサツなの。よくお母さんにも言われてるでしょ「アデルちゃんとやりなさーい」って。この間も服に穴あけて隠していたの怒られてたよね」
アルマと呼ばれた少女が兄に対して怒って、母親の口真似をする。するとアデルと呼ばれた男の子が嫌そうな顔をする。
「その話はいいから、行ってみようよ。アルマも話を聞いたときは乗り気だったよね」
「いいわよ。じゃあ一緒に行ってあげるから、お兄ちゃんが先頭ね!」
「え、なんで僕が」
「言い出した人が先頭なの。それとも、お兄ちゃん怖いの?」
「なっ⁉ そ、そんなわけないし! ほらいこう!」
アデルは、わざとらしく大股気味にズカズカと足音をたて洞窟の中へと入っていく。
「ジメジメしてるけど普通の洞窟だね」
「そもそも普通じゃない洞窟ってなに?」
「な、なにってなんだよ……」
アルマの鋭い指摘にアデルはタジタジになってしまう。
「普通じゃないって言われても……」
首を捻り考えるアデルの袖をアルマが引っ張る。
「ねえお兄ちゃん、あれ」
「なんだよ……ってなんだあれ?」
驚いた二人が走って行った先には、洞窟内だというのに青々と生い茂る一本の大木があった。それだけでも不思議だが大木の中央には大きな穴があり、その中には大きな水晶が浮かんで回っていた。
周囲に流れるキラキラと光る沢を慎重に歩き、ゆっくりと回転する水晶を二人は見上げる。
「不思議な木」
アルマが見上げて呟く横でアデルはしゃがんでなにかを拾う。
「ねえアルマ、これって飴玉っぽくない?」
「確かにそう見えるけど……ってお兄ちゃんなにしてるの!」
指で摘まんでいた透明の丸い玉を服で擦ると、ぺろりと舐めるアデルを見たアルマが怒って止めさせようとする。
「甘い! ものすごく甘い! アルマも舐めてみてよ」
「えぇ……」
アデルに勧められて嫌な顔をするアルマだが、アデルは手に持っていた玉を口に入れて飴玉のように口の中で転がす。頬をほんのり赤く染めて幸せそうに舐める姿を見て、アルマも周囲を見回して落ちていた丸い玉を一つ拾い上げる。
「へぇ~いっぱいあるんだ。ちょっと舐めるだけならいいよね」
アルマは沢に流れる水を手ですくって玉にかけて洗うと、服で擦ってからそっと口に近づける。
恐る恐る舐めたアルマは目を丸くして頬を押える。
「甘い! 凄く甘いねこれ!」
「ね! 口の中に入れてみてよ。飴玉みたいに小さくならないし、ずーっと甘いから」
アデルに勧められアルマも丸い玉を口に入れる。
「ほんとに甘ーい!!」
頬をほんのりと赤く染めて口を押えるアルマをアデルは満足そうに見る。とても甘い玉を舐めて喜ぶ兄妹は、自分たちの足下に薄っすらと霧が立ち込め始めていることにはまだ気づいていない。




