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ダンジョン シェルシェ  作者: 功野 涼し
同業者

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7

 涙を流すアリアを見たトーマが口を開く。


「で、どうするつもりなんだよ」


「そこは自分の力を最大限に生かそうと思います」


「力を生かすだと?」


 シルシエの言葉を繰り返したトーマが首を傾げる。


 ***


 シルシエはアリアを連れ川岸を歩く。足元に落ちていた木片を手にすると、周囲を見渡す。川岸には色とりどりの木片が散らばっていて、様々な船が犠牲になったことを教えてくれる。


「色を付けるのは、自分の船を見つけてもらうため」


「失敗するの前提みたいな話だな。理解出来ねえな」


「それでもフルーヴ川の果てを求めて行きたくなるのが冒険者なんですよ」


「やっぱり意味が分からん。理解できないな」


 そう言ってシルシエとトーマは向こう岸の見えない巨大な川を見つめる。川というよりも海のように果てしなく広がるが、流れは一方に向かって流れていく。川が大きすぎてゆっくり流れているように見えるが、実際の流れはとても速く、さらに膨大な水が移動しているので飲み込まれようものなら一たまりもない。


「でもここ最近ではフルーヴ川に挑む人たちも少なくなったそうですよ」


「賢明な判断だな。無謀な考えを持つ奴らの挑戦が終わったと言った方が正しいか?」


 腕を組んで川を見ながら言うトーマの視線に、自分の視線を合わせたシルシエがフルーヴ川の流れを見つめる。


「それで? 力を使うとか言ってたけどなにをするつもりだ」


「それはですね、これです」


 シルシエは鞄の中から葉っぱでできた大量の船を取り出す。


「は? それに乗って探すつもりか?」


「そうですよ」


「おいマジかよ。俺は冗談で言ったんだぜ」


 わざとらしく驚くトーマを見てクスクス笑うシルシエは、一艘の船を手に取ると川の上に置く。葉っぱの船は勢いよく進むが、すぐに川の流れに飲み込まれてしまう。


 それを見たトーマがなにかを言おうとするが言葉を飲み込む。


 沈んだはずの葉っぱの船が浮上して川の流れに抗い進み始める。葉っぱの船の上には小さな丸い光が二つあり、それはまるで船を操縦しているようにも見える。


「まさか、ここに沈んでる魂を片っ端から拾い上げる気か?」


「拾い上げるんじゃなくて、手伝ってもらうんですよ」


 トーマの質問に笑って答えるシルシエが掌にのせた葉っぱの船を川に降ろす。


「この川で亡くなった方が冒険を続けられるようにと流されるこの船は、デフィの船と呼ばれ挑戦する気持ちに応えるものです。長い年月を経て蓄積された思いに、僕の力を込めたデフィの船を流せば沈みにくい船が完成します」


「力を込めるって言ってもよ、物理的に船は沈むだろ」


「この川がただの水の流れならそうなんでしょうけど、これ川じゃないですから」


「はぁ? 川じゃないって⁉」


 驚くトーマが川に近づき目を凝らす。


「いや、ただの水だろ」


「この水おそらく循環してるんだと思います。流れ着いた先で飲み込まれ、こして上に向かって吐き出し、雨になって降りそそぎ川になる。川の流れの果てにいる巨大なモンスターによって、というよりもこの階層自体がモンスターの中だと表現した方がいいですかね」


「モンスターの中だと⁉ そんな感じはしないぞ」


「正確には階層自体が生き物ってわけではなく、この階層がモンスターの口へ向かうために作られたものだと言った方が分かりやすいかもしれません。効率よく一点に獲物を集めようとしてるんだと思います。つまりこの水はモンスターの一部、なら僕の力で抗えるってわけです」


 説明をしながらシルシエは、葉っぱで作られたデフィの船を川へと次々に投げていく。


「このフルーヴ川に誰よりも詳しい皆さんにお願いがあります。僕たちはリナトさんという方を探しています。探し出してここに連れて来てもらえませんか」


 シルシエの呼びかけに反応し、川の底から色々な色の丸い玉が浮かび上がってくると船に乗り込んだり、まるで泳いでいるかの様に水面を進んだり底へ潜ったりし始める。


 雨の降る暗い空間に流れる濁った水を、色とりどりに光る玉が彩どる。


 やがて光の玉が一緒に集まり、そして一つの白く光る玉を川底から引き上げ船に乗せると川岸までやってくる。

 その光の玉を手にしたシルシエが両手でそっと包み込むと、手の中から眩い光が漏れ始める。


 包んでいた手を広げると光が地面に落ち弾けたかと思うと人の形を作る。


「リナト……」


 光から現れた男性を見てアリアは涙を流しながら呟く。


「アリア……アリアなのかい」


 二人はお互いに信じられないといった表情で近づくと手を取り合う。


「リナトごめんなさい。私、あなたに行ってほしくなくて……酷いことを言って……」


 声を震わせるアリアをリナトが抱きしめる。


「僕の方こそごめん。親友を探すことばかりに目を向けて、君に酷いことをしてしまった……本当にごめん」


 涙を流し合う二人を包むように色とりどりの光が舞いながら上へ上へと昇り始める。


「せっかく会えたんです、積もる話もあるでしょう。ここは人目もありますし、行くべき場所でゆっくりと話してください」


 シルシエの言葉に反応した二人がシルシエに視線を向ける。


「ありがとうございます。シルシエさんのおかげでこうしてリナトに会うことができました」


「僕の方からもお礼を言わせてください。僕をアリアと会わせてくれてありがとうございます」


 リナトと共にお礼を言うアリアが涙目ながらも笑顔を見せる。その表情はさっきまでの虚ろなものではなく、喜びに満ち溢れていて、死を微塵も感じさせない。


「いいえ、僕はお願いしただけで見つけてくれたのは冒険者の方々なので、お礼はそちらに言ってください」


 そう言って笑うシルシエを見て、アリアとリナトは目を合わせて笑い合う。そして互いの手を強く握るとシルシエに笑顔を見せ弾けて光となる。


 ━━ありがとうございます。シルシエさんの進む道に、(さち)あることを祈ってます。


 アリアの声が響き、色とりどりの光と共に弾ける。


 そして上からキラキラと光が落ちてくると、シルシエとトーマの体に降りそそぐ。

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