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ご飯を食べ終えた二人は食堂から出ると、町の外れへと歩いて行く。
人気のない路地裏には誰の物かも分からない木箱が積んであり、そのうちの一つにシルシエは座る。
「トーマさんはどこから覚えていますか? ちなみに僕はダンジョン内で冒険者に助けられたときからです」
シルシエの問いにトーマが眉をピクリと動かす。
「同じだ」
「それじゃあ、僕はなにか大切なものを探して各ダンジョンを回っているんですけど。その肝心ななにかが分からないんです」
「同じだ」
シルシエの言葉の途中でトーマが答えると、二人は黙ったまま見つめ合う。
「意味のない会話でしたね」
「ちっ、やっぱお前ムカつくわ」
笑顔を見せるシルシエにトーマが悪態をつく。
「でも、僕の師匠も同じでしたし、調律者と呼ばれる人たちはみんな一緒なんでしょうね」
「まあな、俺が会ったことのある調律者たちも皆同じことを言ってた」
「あ、それは有益な情報ですね」
ニッコリ笑うシルシエにトーマは舌打ちをする。
「そもそもだ、今の俺がなんで存在しているのかが分からない。夢の中にふと昔の自分だったものがちらつくことがあるが、俺がこの存在になっておおよそ500年程度だ。今となってはこの俺が正であり、過去は赤の他人といっても過言ではないだろ」
「確かに、今さら調律者になる前の記憶を戻したところで……というのはあります。でも、ときどき心の奥底からなにか大切なものを探さないといけないって湧き上がってきませんか? いっそのことダンジョンから離れてみようと考えても、自身が存在する為にはダンジョンが必要になりますよね?」
シルシエの問いにトーマは黙ったまま軽く頷く。
「ダンジョンのどこかに、凄く大切なものを置いてきた。探さないと……そういった衝動に駆られます。でも、どこのダンジョンで自分がなにを探しているのか分からないという、お手上げ状態なんですよね」
わざとらしく手を広げて困った顔で笑うシルシエを見てトーマが呆れたようにふっと笑う。
「古くからあるダンジョンコアに、俺たちがなんなのか聞いたことがあるが、ダンジョンを回ってバランス調整する役しか分からないとさ。それどころかあちらさんも自身の存在がなんなのか分かっていない様子だしな」
「各ダンジョンにはダンジョン内を調整するモンスター、いわゆる調整者がいますから、僕たちはダンジョンを巡って全体的なバランスを見る役なんでしょうね。だれがなんのためにといった疑問は残りますけど」
二人は言葉を交わしたあと同時に小さなため息をつく。
「それで、ですけど」
沈黙を先に破ったシルシエがトーマに目を向けると、トーマは目を鋭くして見返す。
「で、元の魂を食うなって話に戻るわけか」
静かに言葉を口にしながらも、殺気立つトーマに当てられ、空気もピリッと引き締まる。




