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川岸を歩く赤い髪の男がふと足を止めると、川岸に座って濁った川の流れを見つめている一人の女性の頭を掴む。女性は頭を握られても反応することなく、川の流れを見つめ続けている。
頭を握る手に力が入ったとき、赤い髪の男の後ろにシルシエが立つ。
「なにか用か?」
「手を放してもらえますか」
シルシエの言葉を聞いた赤い髪の男が振り返ることなくふっと笑うと、女性の頭を握ったまま持ち上げるが、飛んできたナイフを避けるため手を放して横に飛ぶ。
手を放された女性はドサッとその場に倒れるが、倒れたまま川を見つめ続ける。
「物騒なガキだな」
「口で言っても聞いてくれそうになかったので、実力行使させてもらいました」
お互い僅かに笑みを浮かべると、シルシエが短剣を持ち赤い髪の男が拳にナックルダスターをつけると同時に踏み込む。
シルシエの振り上げた短剣を、右のフックを放ち拳のナックルダスターで赤い髪の男が弾くと無防備になったシルシエの顎目がけ左のアッパーが放たれる。
顎を上げ倒れるくらい身を反らしアッパーを避けたシルシエは、体を捻り回転しながら地面に両手をつくと足払いをする。
足を上げて避けた赤い髪の男は上げた足を大きく踏み込むと、シルシエに拳を振り下ろす。だが、途中で拳を止めた赤い髪の男は、踏み込んだ足に体重を乗せ片足で跳ぶとシルシエの頭上を飛び越える。
先ほどまで赤い髪の男がいた場所にシルシエが投げた二本のナイフの行く先を見る間もなく、シルシエの短剣と赤い髪の男の拳がぶつかり火花が散る。
互いに大きく跳ねて間合いを取って睨み合う。
「てめえ、普通の人間じゃないな……」
そう言って赤髪の男が長い前髪をかき上げ、隠れていた右目を露わにする。
左の赤い瞳と、右の金色に光る目でシルシエを見る赤髪の男に対し、シルシエも眼帯を取り右目を見せる。
「同業者といったところでしょうか」
「なるほど。狩場が被ったというわけか、ならば潰すしかないな」
「狩場……そういうわけではないんですが」
言葉を交わしながらも互いの武器を構え動きを探り合う二人の緊迫を破ったのは男性の声だった。
「君たち、なにをしているんだい?」
シルシエとさきほど話していた男性とその仲間たちが、シルシエと赤髪の男をじっと見ている。その目は警戒の色が濃く、後方に控える男女もそれぞれの武器に手をかけ臨戦態勢であることをアピールしている。
「ふん、そいつはまずそうだからお前に譲ってやる。次に被ったときは容赦はせん」
「被るとかじゃなくて、少しお話がしたいんですけど」
シルシエの言葉を聞いた赤髪の男が睨む。
「まさかとは思うが、声を聞いて欲しいとかバカみたいなことを言うんじゃないだろうな」
「そのまさかなんですけど。その言い方だと認識した上でやってるってことですよね」
ふんと馬鹿にした笑いを一つした赤髪の男は、シルシエを憐れむように見る。
「昔そんなことを言う女がいたな。だが生憎俺はこのやり方しかしらない」
ボソッと呟いた赤髪の男は、もう興味がないと言った様子でその場を去って行く。
「僕と同じことを言う女性か……」
シルシエも去って行く赤髪の男の背中を見ながら呟く。




