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ダンジョン シェルシェ  作者: 功野 涼し
同業者

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62/71

1

 地下四階だというのに、しとしとと雨が降り続けるダンジョンにおいて、ぼんやりと空を見上げる男性は佇んでいる。


 見上げる瞳に光はなくなにを見ているかも定かでない。雨に打たれているはずなのに顔や体が濡れることはなく、そしてなによりも道行く人が男に接触しても、お互い干渉することなくすり抜けていってしまう。


 誰も彼の存在など気に留める様子もなく過ぎ去っていく中、背の高い一人の男が立ち止まる。


 雨に打たれ濡れる赤い髪から水を滴らせる男は、佇む男を長い前髪の間から覗く赤い瞳と金色の瞳でジッと見つめる。


 腕を伸ばすと佇む男の胸ぐらを掴む。鍛えられた腕に浮いた血管がより鮮明になり存在を主張することで、赤髪の男が力を入れたのだというじょとが分かる。そのまま佇む男を片手で持ち上げると、もう一方の手を握り拳を腹部に放つ。


 佇む男は光となり消え、赤髪の男が掴んでいた手の中へと光は吸い込まれていく。


 握った拳をさらにぐっと握ると、ゆっくり開く。


 赤髪の男の掌にはビー玉に似た丸い球が一つあり。その球はキラキラと光の結晶を周囲に舞わせて輝く。


 その球を赤髪の男は口に頬り込むとガリガリ音をたてながら食べてしまう。


「ちっ、しけてんな」


 吐き捨てるかのように言う赤髪の男はなにもいなくなった空間に背を向けると、その場から去って行く。


 ***


 ダンジョン中に降り続ける雨は大きな川を生み出す。三階にある大きな川は、どこへ向かって流れているのか誰も分からないが一度流されてしまうと二度と帰って来れなくなると誰もが言う。


 細長い葉っぱで作った船を流す数人の男女たちは、やむことなく降り続ける雨で濁った川のうねりに葉っぱの船がすぐに飲み込まれ消えてしまってもただただジッと見つめていた。


「あのぉ、ちょっとお尋ねしたいんですが」


 川を見つめていた男女が背後からかけられた声に驚きの表情を見せる。


「驚かせてしまってごめんなさい。僕シルシエっていうんですけど、先ほど流していた葉っぱの船にはどんな意味があるんですか?」


「ああこれかい」


 一人の男性が手に持っていた葉っぱの船をシルシエに見せる。


「これはこの川で命を落とした人たちへ向けて流しているんだ」


「命を救うという意味ですか?」


 シルシエの問に男性は少しだけ考える素振りを見せたあと、小さく首を横に振る。


「救う、というよりかは新たな船を送ってこの川の果てを探す挑戦を続けてくれ、って意味のほうが強いかな」


 男性が答えると後ろにいた男女も歯を見せ笑う。


「ああ間違いない」


「あの人なら葉っぱの船でも川を下り始めるよね」


 そんな声を聞いて不思議そうにするシルシエを見て男性が笑う。


「ダンジョン・クラシャンの三階に流れるこの川はフルーヴと名づけられ、多くの冒険者がフルーヴの果てを目指して挑戦しているんだ。今まで誰も果てにたどり着いて、帰ってきた人はいない。僕の親友も三年前に船を作ってフルーヴの果てに挑戦して帰ってきてないんだ。それで、この葉っぱの船を流して援護してやろうってことさ」


 男性の話を聞いたシルシエは微笑む。


「果敢に未知へ挑む、冒険者らしいお話ですね。ご友人との大切な時間中にお話ししていただきありがとうございます」


 お礼を述べたシルシエが、男性の方を見たとき、その背後にある川岸を歩く、赤い髪の男が歩いているのが目に入る。

 男性たちにお別れの挨拶をしたシルシエは、赤い髪の男がいた方へと歩き始める。

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