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ダンジョン シェルシェ  作者: 功野 涼し
罪業

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59/71

6

 シェドの村の森を顎に大きな傷のある一人の男が歩く。なにかに警戒しているようで、ときどき足を止めては耳を澄ませ辺りを探る様子を見せる。


 目的の場所に到着したのか、大きな木の幹に背をつけ警戒した様子を見せていた男が、別の方から足音が聞こえるとそっと幹に隠れながら様子を窺う。


 やがて近づいてきた足音の主がクリムであることを知った男は、手だけ僅かに出して存在をアピールする。


 クリムがやって来ると幹に寄りかかった男が口を開く。


「誰にも気づかれてねえだろうな?」


「大丈夫だ。それよりも……」


 クリムの言葉を遮って男が手を出して広げる。そして傷のある顎で自分の手をさす男の意図を汲んだクリムが慌てて、腰にぶら下げていた袋を外し男の手に載せる。

 すると男は乱暴に袋を引き取ると、中を確認する。


「ほらよ」


 そう言って男は自分の肩にかけてあった鞄から包みを取り出しクリムに渡す。包みを開いて中身を確認したクリムは男に頭を下げる。


「ありがとう。助かった」


「また連絡しろ」


 お礼を述べるクリムに対し冷淡な態度を取る男は足早にその場を立ち去る。すぐに残されたクリムも足早にその場をあとにする。


 ***


 二人が立ち去ったあと、少し離れた場所から二つの影が現れる。

 まだ警戒を解かないアトモスにピッタリと寄り添うプリスは微かに震えている。


「さっきいた人物とはまだ別の人物がいるということですね?」


 アトモスの言葉にプリスは頷く。


「あの包みの中身は分かりますか?」


 横に首を振るプリスが震える唇を動かす。


「ご、ごめんなさい。中身までは分かりません。だけど、あの包みを持って帰った日は、その……いつも以上に乱暴になって……あの……強要され……」


「詳しく話さなくても大丈夫ですよ。草や花による幻覚、またはモンスターの血肉を取り入れて興奮状態になる品があって、中毒性がありますからその(たぐい)かもしれませんね。なんにせよご協力ありがとうございます」


 お礼を述べるアトモスを潤んだ瞳で見ていたプリスが抱きつく。驚くアトモスがどうしていいか分からずに行き場のなくなった両手を挙げていると、プリスは涙を流し始める。


「私、怖いんです。今日帰ったら、絶対に夫は私に暴力を振るいます。密猟者を捕えるためには私が帰っていつも通り振るまわばいといけないのに、勝手なことを言っているのは分かっています。だから、少しだけでいいんです。ちょっとだけこのままにさせてください」


 しばらくアトモスに抱きついていたプリスだが、アトモスの体を押してゆっくりと離れるとまだ涙の残る目で笑顔を見せる。


「ごめんなさい。わがまま言って」


「い、いえ。私の方こそ危険な目に合うと分かっているのに家に帰すとか……酷いことを⁉」


 頭を掻きながら言葉を並べるアトモスの唇をプリスが指で押さえる。驚くアトモスにプリスが精一杯の笑顔で首を横に振る。


「アトモスさんはシェドウェイ国の秩序を守るためにやっているんですから、市民である私が協力するのは当然です。でも……」


 そう言ってプリスが再びアトモスに近づくと、潤んだ瞳で見上げる。その(つや)っぽい瞳にアトモスは思わず唾を飲み込んでしまう。


「優しさをもっと近くで感じさせてほしい……」


 自分よりも背の低いプリスが目をつぶって少しだけ背伸びをする、その意味を理解したアトモスは戸惑いつつもそっとプリスの背中に手を回して優しく支えると自分の顔をプリスに近づけ唇を重ねる。


 プリスに遠慮がちに押され、我に返ったアトモスは目を逸らしながら頬を赤くするプリスの表情に自分の顔が熱くなるのを感じ思わず自分の頬にふれてしまう。


「ありがとうございます。これで頑張れます。また、夫に動きがあったらお伝えしますから」


「あ、はい。その、危険を感じたら逃げてください」


「はい、でも、アトモスさんのお仕事のためにも頑張ります」


 必死で堪えている、そんな健気な笑顔にアトモスは顔を真赤にしてしまう。プリスと初めて会ったときの凛とした隙のない王国騎士団のアトモスはそこにはおらず、目の前にいる一人の女性を思う一人の男は後ろ髪を引かれるのか、何度も振り返りプリスの姿を名残惜しそうに見ながら帰っていく。

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