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ダンジョン シェルシェ  作者: 功野 涼し
罪業

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58/71

5

 丁寧に折り畳んでいた号外を広げたアトモスは、目の前にいるクリムを見つめる。


 アトモスは「悲惨な事件があったから、なんでも解決の糸口が欲しい」と鎮痛な面持ちでクリムに協力を願うが、その目には疑いが宿りじっと見つめる目は懇願ではなく観察であることは、クリム本人も感じ取っていた。


「昨日のことなんですが、ダンジョンにて密猟者を捕らえたんですよね」


 クリムは号外にある花の悪魔とは違う話題を突然振られ、号外の一面から視線をアトモスに移す。


 お互い目を合わせ見つめ合うのは数秒だが、まばたきもせず目を合わせる時間は当人たちだけでなく、周りから見ても長く感じられた。


 重く深い空気の中を歩いてきたプリスがアトモスとクリムの前にコップを置くと、水をそそぐ。


 清涼感を感じさせる水の音に、重苦しい空気が幾分か和らいだところでプリスが口を開く。


「密猟者は村に来ていた人だったんですか?」


「いいえ、ダンジョン内にある持ち出し禁止の植物の種を専門に盗る輩でして、こちらのシュド村には来ていないと自白いたしました」


 答えながらプリスのついだ水を飲んだアトモスが目を大きく見開く。


「やはり何度飲んでも美味しいです。シュドの村の水は美味しいと評判ですから、水が綺麗で作物や花の生産が盛んなのも納得です。そう、花と言えば━━」


「シュドの村は特にカーネーションの生産が盛んでして、各地に出荷してるんですよ。大陸中で人気ですからそれこそノル村にも出荷しているんですよ」


 アトモスの言葉を遮ったプリスが微笑みながら、水の入ったポットをかざすとアトモスは会釈をしつつコップを差し出す。


「あっ!? ごめんなさい!」


 水を注いでいたプリスの手元が狂い、アトモスの足にかかってしまい、プリスは慌てて布巾を手にしてアトモスの足を拭き始める。


「い、いえ大丈夫ですよ。これくらい」


 机の下に屈んで必死に拭くプリスに、アトモスの方が慌てて身を引くが、プリスがチラッと見上げると服のポケットから、クシャクシャの紙を取り出しアトモスの足の上に置く。


 アトモスが視線をプリスに向けると、プリスは慌てて立ち上がり深々と頭を下げる。


「本当に申し訳ございません」


「い、いえ。本当に大丈夫ですよ。任務中にはこれくらいよくあることですから」


 謝るプリスに、アトモスは笑って返すと同じく謝るクリムにも笑顔を向ける。


「まあそういうことですので、なにかあれば教えてください。私は別の任務があるので今日はこれで失礼させていただきます」


 そう言って立ち上がったアトモスは、クリムたちの家から出ていく。


 シュドの村の入口を出てしばらく歩いたところで、先ほどプリスに渡されたクシャクシャの紙を広げたアトモスは眉間にシワを寄せ、怪訝な表情を見せる。


 ***


 その日の夜、アトモスはシュドの村に訪れる。ただ、村の中に入ることはせず近隣にある森の中を慎重に歩く。


 ある大きな木の枝に白いハンカチが結ばれていることに気づいたアトモスが、腰に装備してある剣の柄に手を触れつつそっとハンカチが結ばれている木の裏側へと回り込む。


「こっちです」


 暗闇の中小さな声がする。アトモスが声のした方を向くと、プリスが木の陰から半身だけ出して手招きしているのが目に入る。


 アトモスは警戒しながら近づくと、プリスは胸を押え大きく安堵のため息をつく。


「来てくれると信じていました」


「……この紙に書いてあった言葉の意味はなんなのですか?」


 アトモスが広げた紙には合流地点が記された森の地図と、目印となる木とハンカチ、そして「たすけて」の文字があった。


「それは……」


 言いにくそうに下を向いたプリスだが、すぐにアトモスの手を握って見上げる。


「夫であるクリムが密猟者と会っているのを見たんです」


「なんですって? あ、すいません」


 プリスの言葉に驚き思わず両肩を掴んでしまったアトモスが謝ると、プリスは目に涙を溜め潤んだ瞳でアトモスを見つめる。


「それで……私が見たことに薄々感づいているみたいで、その……暴力を振るわれて……怖くて……。だからアトモスさんが来たとき逃げるチャンスだって……ごめんなさい」


 そう言って涙を流し始めたプリスはアトモスにすがりつく。突然のことに驚くアトモスだが、プリスの肩を押して丁寧に自分から離すと優しく語りかける。


「そんな大変な思いをしていたとは気づかず申し訳ありません。ですが、勇気を持ってお話して頂きありがとうございます。密猟者の捕獲はもちろんですが、プリスさんの安全のためにも詳しくお話をしていただけませんか?」


 アトモスの優しい口調に、微笑んだプリスは頷く。

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