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ダンジョン シェルシェ  作者: 功野 涼し
罪業

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55/71

2

 プリュネの父親が別の家に向かい入ると客室には年老いた老人と、40中盤といった感じの真面目そうな鎧に身を包んだ男が並んで座っており、その向かい側にプリュネの父親の面影がある白髪の男性が座っていた。


「おぉクリムきたか。こちらノル村のメイン村長と、シェドウェイ国からいらっしゃった騎士団のアトモス隊長だ」


 それぞれが立ち上がって挨拶を交わすと、クリムは自分の父親でありシュド村の村長の隣に座る。


「先ほどもお尋ねしたので重複にはなりますが、ここ最近ノル村周辺で村人が襲われている事案があることは知っているでしょうか?」


 クリムが座ってすぐに話し始めたアトモスに尋ねられ、クリムは首を横に振る。


「申しわけありませんが、存じ上げません」


「そうですか……それでしたら注意喚起という意味で聞いてください」


 アトモスが手を組み顎を乗せると話し始める。


「ここ一カ月の話なのですがノル村の東側に広がる森で村人が襲われているんです。既に犠牲者が出ていて、三人ほど命を落としています」


 アトモスの話始めた内容に驚きを隠せないクリムが目を見開く。そんなクリムの反応を見ながらアトモスは言葉を続ける。


「ことの始まりは家畜が襲われました。それこそ初めは熊や狼などに襲われたのだろうと、警備を強化し対応しました」


「初めは?」


 アトモスの言い方が引っかかったクリムは、話しの途中に思わず言葉を発してしまったことに慌てて口を押さえ、頭を下げたあと手を広げ話を続けてほしいとジェスチャーで促す。


 アトモスは頷き、咳払いを一つすると再び話し始める。


「一人目の犠牲者は、自分の家の家畜を自衛していた農家の息子でした。家族で交代しながら夜の番をしていたとき、息子の悲鳴を聞きつけた父親が発見したときには息絶えていた……とのことです」


 息を一つ吐いたアトモスがチラッとクリムを見るとクリムは頷く。


「全身擦り傷だらけでしたが、致命傷は背中にあった大きな傷。背後からバッサリ四本の爪痕が残っていました。私が知り得る限り見たこともない爪痕でした」


 出されていた水を一口飲んだアトモスが再び口を開く。


「二人目、三人目も同様に背中からやられていました。犯人が回目見当もつかない我々はダンジョンの魔物が外に逃げ出した可能性も含め調査対象を広げました。調査をしていくうちにある可能性が発覚したんです」


 アトモスがジッとクリムを見つめると、クリムは喉を鳴らして唾を飲み込む。


「ダンジョンから持ち出していいものは、資源物。討伐したモンスターの部位とモンスターコアです。基本はダンジョンから出た際に検疫があるので、生きたモンスターや、毒性や中毒性の強いもの、繁殖力の強い植物、生物などは持ち出すことはできないことになっています。あとは各国で決めたれた法律のもと、厳しく制限されてはいるんですが、残念なことに監視の目をかい潜って持ち出す者が一定数いるのも事実です」


 クリムに視線を向けたままアトモスは言葉を続ける。


「いえね、こちらのシュド村に密輸集団のメンバーが立ち寄ったんじゃないかと言う証言がありましてね、村長さんやその息子であるクリムさんならなにか知っているのではないかと思いまして。どうですか? なにかご存知ありませんか? どんな些細なことでもいいですので」


「申しわけありませんがなにも分かりません。ところで一つ聞きたいのですがよろしいですか?」


 アトモスにどうぞと促され、クロムは口を開く。


「ノルの村からこの村まで随分と離れていますし、どちらもダンジョンからは遠い場所になります。仮にここに密猟団が入ったとしてもあまり関係がないように思えるんですが」


「まあごもっともな意見ですね。ただこちらの特産品であるカーネーションの花が必ず現場に落ちているとメイン村長から聞いていまして、それがどうにも引っかかっていてお訪ねした次第です」


「カーネーションの花びらが? それで決めつけるのはどうかと……」


「いえいえ、決めつけてはいませんよ。可能性を見つけては、なにが真実でなにがそうでないかを地道に選別して事件の解決に向かっていくのが私の仕事ですから。たとえ花が関係なくともそれは、そうではないということが分かったということで、一歩捜査は進展したことになるんですから」


 そこまで言ってアトモスは笑うと出されていた水をぐいっと一気に飲み干す。


「花の栽培が盛んなだけあって、水も綺麗で美味しいですね。今日お尋ねしたのは捜査というより、注意喚起の意味合いが強いですから、どうぞ戸締まり等には気をつけてください」


 それだけ言うと膝を叩いて勢いよく立ち上がる。


「ではこれにて失礼します。あ、そうだ!」


 立ち上がって椅子から離れたところで立ち止まり振り向くとクリムをじっと見る。

 突然振り向いたアトモスに驚くクリムが目を見開く。


「もしもなにか思い出したらいつでもおっしゃってください。シェドウェイ国、騎士団のアトモスだと言えばどこの詰所でも通じるようにしておきますから連絡ください」


「は、はい……分かりました」


 クリムの返事を聞いて、アトモスは満足気に頷くとその場をあとにする。

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