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シルシエは目の前にいる人型の者をまっすぐ見つめる。
「ダンジョン・フランメさんはこれからどうするんですか? このまま廃ダンジョンとして寿命を終えますか? それとも新たなダンジョンとして再生しますか?」
シルシエの問いかけに人型の者もまた、目の無い視線をシルシエに向ける。
「「もう一つ質問させてくれないか」」
シルシエが頷くと、人型の者は口を動かす。
「「もしも探しものが見つかったらそこで探索者をやめるのか?」」
「いいえ、もしも探しものが見つかっても新しいなにかを探すため探索者として存在し得る限り生きていくつもりです。人もダンジョンもずっと同じ形ではいられないはずです。その変化を楽しむのもいいんじゃないかと思います」
「「……そうか、毎日やってくる人々の欲深さ、醜さには飽き飽きし私自身の存在意義に疑問を持っていたが、変化を楽しむ……なるほどその発想はなかった。もし私が新たなダンジョンを形成したとき、シルシエは再び来てくれるか?」」
「はい、必ず行きます」
シルシエの返事を聞いた人型の者が体を形成している根を解き人型をやめると、中央の水晶はボンヤリと光を放ちはじめる。
「どんなダンジョンを作るつもりですか?」
「「熱く燃え盛るのがいい。元々私の名前がフランメとつけられたのは、炎の川が流れ、壁は燃える灼熱のダンジョンだったからだ。その熱さを持って人々を迎え入れ、そこでなにを見せてくれるのか見守ることにしようと思う」」
「それは難易度が高そうなダンジョンになりそうです。次に出会えることを楽しみにしています」
シルシエの言葉に水晶が赤く光って応える。
***
鉄の扉をノックするとゆっくりと開き、案内してくれた兵が顔を覗かせる。
「どうだ? なにもなかっただろ?」
「そうですね。なにもないですね」
「だから行っても面白くないって言ったろ」
呆れたように笑う兵に微笑み返したシルシエが口を開く。
「ここのダンジョンって昔は燃えるような熱さを持っていたんですか?」
「ん? そうだな。火の川なんか流れててかなり熱かったな。ただ危険ではあったけど、中で採れる資源はなかなか高品質で高値で取引されていたんだぞ」
「そうなんですね。その熱いダンジョン見てみたかったです」
「俺も見せてやりたかったけど、こればっかりは仕方ないよな。おっと、俺も見張りの仕事に戻らなきゃいけない。次、来るときはもしかしたらここ自体存在しないかもしれないけど、また別のダンジョンで見張りやってるかもしれないから、そんときは
声かけてくれよな」
リュックをパンパンと叩く兵に促されシルシエは外に出る。
外に出てしばらく歩いたあと、人気のない場所で振り返ったシルシエは右目の眼帯を外す。
金色に輝く右目が映すダンジョンの入り口からあふれ立ち昇る、赤い小さな光の粒たちを見て微笑む。
「次に来るときを楽しみにしています」
シルシエの呟きに応えるように赤い光はゆらゆらと空へ向かって立ち昇っていく。




