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ダンジョン シェルシェ  作者: 功野 涼し
渇きを熱で潤す

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52/71

4

 ━━ここよりずっと北にある場所……名前をラッセルと呼ばれる国にあるダンジョンから僕の記憶は始まります。


 そこに至るまでなにをしていたかは覚えていませんけど、凍えるような寒さの中、薄着でダンジョン内にある横穴に座っていました。


 ダンジョンの中は吹雪で視界が悪いんですけど、遠くの方でチカチカと光が見えた気がして、ぼんやりとそちらの方を見ていると光は段々と近づいて、気がつけば数人の人影になっていて僕を毛布で包んで抱きかかえてくれました。


 そのまま助けてくれた人たちが住む村に連れ帰られた僕は、村の人たちに介護され徐々に回復し体を起こし喋れるようになりました。


 名前も出身地もなにも分からない僕を渾身的に看病してくれ、僕が唯一覚えていたのが「なにか大切なものを探している」ことから、その村で探すを意味する言葉『シェルシェ』をもじってシルシエの名前を与えてくれました。


 生きていくうえで必要な技術や知識も与えてくれ、はじめは冒険者として生活して生きていました。動体視力、運動神経に腕力のどれも他の人より突出していて、自分で言うのもなんですが、冒険者として高い評価を得て将来を期待されました。


 数年の月日が経ち僕は段々と普通の人と違うことに気がつきます。目の色が両目で違うオッドアイなのは変わっているで済ませることもできるんですが、ダンジョンや日常生活のどこにでも存在するモヤのようなものが右目を通して見えることに気づきます。


 さらに僕は年齢を重ねているはずなのに、肉体が成長していないことにも気づいてしまいます。もともと出生が不明なのもあり、年を取らないことに疑問を持たれ村でも気味悪がられ、一か所に留まることをやめ世界中を旅する流れの冒険者として生きていくことになります。


 長い旅の中、僕にしか見えていないものを僕は食べれることを、食べることで僕の存在が保てることを知ってしまいます。そして、僕が調律者という存在であることも。


 それらを一個目のダンジョンコアに出会ったときに教えられました。


 そこからは調律者がなんなのか、そもそもなぜ僕は存在しているのかを探し求め生きていくことになります。


 長年……大体50年ほどでしょうか、ダンジョンに潜っては、なにか分からない大切なものを探しながらさ迷っていたとき、僕は同じ調律者の女性と出会います。


 いつものようにダンジョンの端に溜まっていた、僕に見えるものを斬って食べようと思ったとき調律者の女性に止められたんです。


「彼らを見て、声を聞いて、言葉をかけてあげて」


 その言葉を何度も言うアリエと名乗る女性は、僕にモヤがなんなのかそしてモヤにも意志があることを教えてくれます。


 モヤが元は人であったりダンジョンに関係するなにかであったりして、意志の疎通が可能であることを教わり、一方的に奪い取るのではなく気持ちを通じ合わせ少しだけ分けてもらうことも教わりました。


 探索者であったアリエはダンジョンだけでなく、今を生きる人とも積極的に関わっていくので、おかげで僕は様々な経験をすることができました。


 おおよそ30年ほど一緒にお互いの探し物を求め旅をして、アリエは寿命を迎えお別れしました。


 そこから今日まで、僕も一人の探索者として世界をさ迷っています。


「ざっとこんな感じです。元の記憶がないんでダンジョンメインのお話しかできませんけど」


 シルシエが微笑むと、人型の者は目の無い顔でシルシエをじっと見つめ口を動かす。


「「アリエとやらは目的を果たし消えたのだろうか?」」


「いいえ」


 シルシエは首を横に振る。


「アリエは体が保てなくなり消えていきました」


 少し寂しさを含んだ笑みで答えるシルシエに対し、人型の者は質問を続ける。


「「探し物があったのだろう? なぜ消える」」


「なんでしょうね。最後は「シルシエと出会えたからもういいかな。なんだか満足した。あとは任せた」って笑顔で言って消えましたから、彼女の人生が不幸ではなかったと信じています」


「「……シルシエ、お前は自分でもなにかも分からないものを求め、これからもさ迷うのか?」」


「はい、それが僕ですから。最終的に見つけれなくても、アリエのようになんだか満足したって思いながら消えていきたいですから、やれることは全部やります」


 シルシエが強い意志の宿った瞳に人型の者を映す。

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