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ダンジョンの入り口に建てられた建物の壁は薄汚れていて、ギルドと同じような雰囲気を漂わせる。
建物の扉の前にいる兵士は、突然現れたシルシエを見て目を丸くする。
「ダンジョンに入りたいんですけど」
「フランムにか? ま、まあいいけどなにもないぞ」
人が訪ねてきただけでも驚きなのに、さらにダンジョンに入りたいと言われ、これでもかと目を丸くした兵士はシルシエを中へと案内する。
「もうこのダンジョンはダメだから、国からの補助も打ち切られて手この有り様さ。念のため中からモンスターが出てこないようにと、見張りが在住しているけどダンジョンの中でモンスターが最後に確認されたのは二年前だし、そんな心配はないんだけどな」
肩をすくめながら説明する兵士は、ダンジョンの入り口に作られた扉の前でカギを開けるとゆっくりと扉を開く。
「本当になにもないから、飽きたらすぐに帰ってもいいからな。帰ったら裏からノックしてくれ。そしたら扉の鍵を開けるから」
「分かりました。ところでこのダンジョンは何階まであるんですか?」
「あ、うんとな。本当は地下六階なんだがもう朽ちてて今は地下三階までしか降りれないんだ。あ、一応危ないところには入れないように柵をしているから入るなよ」
「はい、分かりました。では、行ってきます」
兵士に見送られシルシエはダンジョン内へと入る。ヒンヤリとした空気はどこかカビ臭く、シルシエは鼻を押える。
「これは思ったよりも酷いかも。全然生命力を感じない」
壁に触れて呟いたシルシエは足を先に進める。『立ち入り禁止』の文字がでかでかと書かれた柵があちらこちらに作られており、それ故に進める通路は決まってしまい誘導されるように地下三階にまでたどり着いてしまう。
地下一階から変わり映えのしない同じ風景の洞窟を歩き進むシルシエは、地下四階に下りるための階段があったであろう場所に立つ。
かつては穴が開いてたであろう場所は崩れ落ち何者の侵入を拒む。
「岩を除けたところで下の階自体、潰れているんだろうから意味ないかな。それに三階以降が壊れたってことは、目当てのものはここにある可能性が高いかな」
壁に触れながら歩くシルシエがときおり耳をつけ、聞き耳をたてなにかを探る。
「う~ん、これだけ生命力もなくて手入れがされてなかったら分かり易いと思ったけど、さすがに簡単にはいかないかなぁ」
腕を組んで考え込むシルシエがなにかに気づき、視線をそちらにやる。
視線の先にあったそれは壁と地面の間に生えたコケ。なんてことのないただのコケだがシルシエはしゃがみ込んで、ナイフを取り出すと先端で一部を剥ぎ取る。
ナイフの先端にのせたコケを見つめるシルシエが目を輝かせる。
「やっと生命体を見つけた。この近くにあるってことだね。えーっと」
シルシエは這いつくばってコケの生えていた場所を中心にして辺りを見回す。別のコケを見つけたシルシエは移動すしてコケを削り取ると周囲を手で探る。
それを繰り返しながらやがて壁に生えているコケを剥ぎ取ると、下から壁に小指ほどの小さな亀裂が現れる。ナイフの先端を突き立て、ぐりぐりと動かすと壁が削れパラパラと砂を落として亀裂がほんのわずか広がる。
「この奥っぽいね」
シルシエは短剣に持ち変えると、左右非対称なガードの中にモンスターコアを入れる。刃のない短剣の先端を穴に刺してそのままグリップを強く握ると、刀身が白く光り輝き亀裂を広げる。
そのまま壁に刺さった輝く刀身を振り上げると、壁は派手に破壊されシルシエが通れるくらいの空間が現れる。
「見つけた……ってうわぁ……」
喜んだと思ったら一転嫌そうな顔をするシルシエの前には、壁にびっしり生えたコケが緑色の煙を吐き出し、空気が緑色になっていた。
「これは体に悪そうだね……」
リュックをおろしたシルシエが、中から取り出したマスクで顔全体を覆って密着させると、口元にあるパーツに丸いフィルターをさし込む。
そしてカッパを着てゴム手袋、ゴムの長靴に履き替え、大きなリュックにカバーを被せて背負う。
「備えあれば患いなしってやつだね」
シルシエはマスクの目の部分から笑顔をわずかに覗かせる。




