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ダンジョン シェルシェ  作者: 功野 涼し
渇きを熱で潤す

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1

 寂れた町を歩くシルシエは、町の中では一番大きな建物の中に入る。


「ここは警備兵もいないんだ……」


 呟きながら上に『ギルド・フランム』と書いてある扉を押して中に入ると床は埃っぽく、天上を見上げればあちこちに蜘蛛の巣がはってある。掲示板にはピンが刺さって後にできた穴しか開いてなく紙は一枚も貼っていない。


 ギシギシと軋む床の上に足跡をつけながら、埃を被った机や椅子を避けカウンターに近づく。


「すいませーん」


 声を出してみるが反応がないので歩きながら人を探す。ドアをそっと開け真っ暗な部屋の中を確認しては閉めること数回、一枚のドアを開けたとき、薄暗い部屋の中でぼんやりとしたランタンの光を頼りに本を読んでいる男性の姿があった。


 ロッキングチェアに深々と座り体を揺らしながら読書に没頭する男性は、ときおり鼻眼鏡の位置を直しながら両手に持った本を一心不乱に見ている。


「あのぉー、ちょっとお時間いいですか?」


 シルシエが声を出すと、男性はゆっくりとシルシエの方を向き鼻眼鏡を人差し指で下げて、その後ろにある裸眼で見てくる。


「なんだ?」


 めんどくさそうに尋ねる男性は、本を閉じると髪のない頭を撫でる。


「え~と、僕は探索者なんですけど。今日このフランムに着いてお金を稼ぐため依頼を受けようかなって思ってギルドに来たんですけど」


「はぁ、お前さんはこの町を見て、さらにこのギルドに入ってもまだ分らんのか? そんなに察しが悪いなら探索者はやめた方がいいぞ」


「えぇ……結構辛辣なお言葉を言うんですね」


「お前さんのために言っておるんだぞ。そんな察しが悪いと生きていくの大変だろ」


 男はロッキングチェアに揺れながらため息をつく。


「察しの悪いお前さんに丁寧に教えてやろう。フランムのダンジョンは枯れててもう何もとれん。モンスターすらおらん。だからこそこの有り様なんだ。分かったか?」


「つまり……」


「仕事などない。分かったら早く帰れ。わしは忙しいんだ」


 眉間にしわを寄せ迷惑そうに手を振って、帰れとジェスチャーする男性の圧に負けてシルシエは朽ちかけたギルドをあとにする。


「活気がないとは思ったけどここまで酷いのは珍しいね」


 看板に書いてある消えかけた『ギルド・フランム』の文字を見たシルシエは呟くと、寂れた町の中を再び歩き出す。


 手入れをされておらず、馬車や人通りのない道はひび割れあちらこちらに雑草が生えている。並んでいる家もほとんどが住んでいないのか状態は悪く、酷いのになると倒壊しかかっているものもある。


 道沿いに溜まっている人たちがシルシエをチラチラと見ている。そんな視線を受けながら歩くシルシエの後ろから一人の少年がぶつかってくる。


 ドンっと鈍い音をたてシルシエとぶつかった少年は謝ることなく、そのまま走り去ってしまう。


 建物の影に走り去る少年を見送ったシルシエは小さくため息をつく。


「こうも堂々とスリをしてくるなんて、この町が末期なのは間違いないんだろうな」


 そう呟いたシルシエは、道路沿いにあるボロボロに朽ちて倒れている看板に視線を落とす。


『→ダンジョン・フランムまで約2キロメートル』


 かすれた文字を目で読んだシルシエは看板がさす道の向こうを見る。


「あんまりやらないんだけど、ダンジョンを見に行ってみようかな。たまにやらないと、こっちが本業だって怒られそうだし」


 ため息混じりに呟いたシルシエは町の外にあるダンジョンを目指して歩く。


 ***


 シルシエにぶつかった少年は物陰に隠れ、シルシエが去って行くのを見てニシシと笑う。


「あいつ、取られたことにも気づいてねえ。だせえヤツ」


 そう言って少年は自分の手を広げ中にある戦利品とご対面する。


「なんだこれ?」


 紙切れを摘まんだ少年は紙に書いてある文字を読む。


『ざんねん』


 憤慨した少年は紙きれを地面に叩きつけて踏みつけようとするが、紙は小馬鹿にしたようにひらひらと舞って、それでも諦めず蹴った少年はバランスを崩してひっくり返ってしまう。

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