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ダンジョン シェルシェ  作者: 功野 涼し
愛のカタチ

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4

 入口の周囲を森で覆われ、中も木々が覆い茂る自然にあふれたダンジョンは、大きな森を意味するグランボアの名がつけられるのは自然な流れだったといえる。


 森の種類も多岐に渡っており、地下へ進むほどうっそうと茂り熱帯雨林へと姿を変えていく。七階まで下りると木自身が移動を始め人々を驚かせる。さらに九階では木が襲ってくる。


 意思を持つ木、トレント呼ばれるモンスターから取れるモンスターコアは質がいいとされているが、それよりもトレント自身を木材として使うと、丈夫な家や道具ができとても重宝されている。


 木の幹に寄りかかって座っているロイターの説明を聞きながらシルシエは、倒れている狼男からモンスターコアを抜き取る。


「グランボアから取れる木材は質がいいと聞きますが、トレントを加工していたんですね。トレントが育つ森自体が珍しいですがから、高値で取引されるのも納得です……っと」


 喋っている途中で飛んできた先の尖った棒を短剣で弾いたシルシエが、木の上から飛び降りてきた狼男の棍棒を身をかわして紙一重で避けると、膝を蹴り体勢を崩した狼男の首筋を短剣で撫でる。


 爪先ほどの鮮血がピッと出たかと思ったら狼男は力なく崩れ落ちる。


「鮮やかだな。無駄のない洗練された動き。そんなことができる人間に私は出会ったことがないな」


「褒め過ぎです。僕は力がないんでこういう戦い方になっただけですよ」


「ふっ、そういうことにしておこう」


 額の汗を拭うシルシエを見て笑ったロイターだが一瞬にして険しい表情に変わる。立ち上がると周囲をキョロキョロとし始める。


「聞こえる……間違いないソレユの声だ」


 虚ろな目をしたロイターが呟くと、なにかに取り憑かれたようにジャングルの奥に向かって歩き始める。


 耳を傾けて首を傾げたシルシエは慌ててロイターを追いかける。


「聞こえないや。結構耳には自信があるんだけどなぁ。これが愛の成せる力ってことなのかな……って速い」


 足場も視界も悪いジャングルの中を、杖をついている老人であることを忘れさせるほど足早に進むロイターに驚きながら、見失わないようにシルシエはついて行く。


 視界を邪魔する木々をかき分けて進むとやがて少しだけ開けた場所に出る。


 数本の朽ちた木が倒れたことでできたであろうその空間に人影が一つ立つ。間違いなく獣人ではあるが、やや平たい顔と腰回りの骨格に人間味を感じるその姿を見たシルシエは驚きの表情を見せる。


「ソレユ……ソレユ。私だ、ロイターだ! 覚えてるか?」


 手を伸ばし近づこうとするロイターに対し、ソレユは歯をむき出しにして唸り威嚇する。


「久しぶりだから忘れたか、それに年をとったし見た目も変わっているから分かにくいな。ほらっ、これは覚えているか?」


 ロイターは肩に担いでいた袋を地面に下ろすと乱暴にまさぐり、中から取り出した干し肉をソレユに振ってアピールする。初めこそ唸っていたソレユだったが、ロイターが振る干し肉をじっと見つめ始める。


「ほら、ソレユこれ好きだったろ。そらっ、食べたら思い出すか」


 ロイターが干し肉をソレユの足下めがけ投げると、ソレユはロイターを睨みながらも足下の干し肉が気になるらしく、何度か視線を往復させたあとじりじりと干し肉の元ににじり寄ったソレユが四つん這いになり干し肉を嗅ぎ始める。


 嗅ぎながらも、視線はロイターの方を見ていて警戒心を見せる。そんな警戒心を解くためかロイターは両手を挙げると、獣人相手には体を大きく見せ威嚇している余に見えたのかソレユは四つん這いのまま後ろに下がり始める。


「驚かせてしまったか。ごめんよ。ほらこれもあげるから食べろ」


 ロイターは謝りながら干し肉をもう一枚投げると後ろに下がる。


 後ろに下がったまましばらくじっと見つめていたソレユだが、ゆっくりと這って干し肉に近づくとスンスンと匂いを嗅いだあとペロっと干し肉を一舐めする。


 口の中で味を確かめているのか舌なめずりをしたソレユは、勢いよく干し肉にかぶりつき大きな尻尾を揺らしながら干し肉を咀嚼し始める。


 ロイターはその様子を目を細めて嬉しそうに見ている。

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