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一人壁の向こう側に飛び込んだアブニールは通路を進む。そして進んだ先で大きな広場に出る。
アブニールは壁をピッケルで叩くと手にした鉱石を見て、興奮し鼻息を荒くする。
「これは私が求めていた鉱石! しかもこんなにいっぱいあるぞ!?」
しばらく至福の笑みを浮べて壁を撫でていたアブニールは突然しゃがみ込み、持っていた鉱石で地面に数字と文章を書き始める。
大量の文字と数字羅列を見て満足そうに微笑んだアブニールは立上り、一心不乱にピッケルで鉱石をかき集める。
やがて一緒に来た冒険者のメンバーが救助にやってきて、興奮するアブニール呆れながら連れていかれる。
━━ジジジツ!
ひときわ大きなノイズが走ると場面は変わり、アブニールは再び鉱石を採取した洞窟の中にいた。
どれくらいの年月が経ったかは定かではないが、念願の鉱石を見つけたときとは打って変わって頬は痩けやつれ、大きなクマを携えた目の視線は合っていない。
「どうして…どうして私の発明を豊かさのためではなく、人を殺めるもののために作り変えるんだ……違う、違うんだ……。私はみんなが楽に楽しく過ごせる世界を夢見て作ったのに」
虚ろな目で呟くアブニールは懐から血のついたナイフを投げ捨てると、近くにあった大きな鞄に火をつける。
鞄の中には大量の紙が詰め込まれていて、そのおかげで炎は勢いよく燃え上がる。
「これで全ての資料もなくなった。研究の内容を知る者もいない……あとは私いなくなればこの研究はこの世から消える。私の研究で人が死ぬことはなくなるんだ」
手に持っていた鉱石を見つめ、もう一つの鞄に目をやる。そこにはダンジョン探索でよく使用されるクラッカーなどの保存食が詰まっている。
「これでここにくる方法を知る者もいなくなる……新人の冒険者には申し訳ないが、これも人類のため……」
アブニールは壁に寄りかかって座ると静かに目をつぶる。
━━ジジッ
ノイズが走り、シルシエの金色に輝く瞳にはアブニールの姿があった。
「このロジウム鉱石によってモンスターコアの抽出量を上げれることをずっと前に気がついた人がいたんだ。でも、アブニールさんが想像した使われ方じゃなかったから存在を抹消した……であっていますか?」
シルシエの問いにアブニールは頷く。その体はうっすらと透けていて、目を凝らすと背中越しに壁が見える。
「アブニールさんが人の命を奪い、自分の命をかけてまで守った研究ですが、何年も経てば同じことに気がつく人が出てきます。僕はこのロジウム鉱石を持ち帰り、人々の発展に関与したいと思っています。持ち帰ることを理解してもらえますか?」
シルシエの呼びかけににアブニールは首を横に振る。
「これは根気よく話し合わないといけなさそうだね」
シルシエは自分を睨むアブニールを見て、説得するため顔を引き締め気合を入れる。




