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ガラスのランタンの灯りを頼りに、長い通路を歩くシルシエが足を止める。
ジッと見つめる視線の先には、立派な鉄の扉がある。シルシエは警戒しながら扉に触れる。危険がないことを確認したシルシエは足を踏ん張り押すと、鉄の扉はゆっくりと開く。
扉の隙間から入ったシルシエの目の前には、ドーム状の空間が広がる。
「これは……採掘場ってところかな」
壁に近づき岩肌に手を触れて調べたシルシエはそのまま、壁に背をつけたまま朽ち果てた白骨の遺体に目をやる。そしてそのまま近づくと、わずかに髪の残る頭蓋骨に触れる。
「遺体の状態からかなり昔にここで亡くなったはずなのに、もの凄く強い意志をあなたからは感じるよ。なにかとてつもなく思いがあるからに他ならないと思うんだ」
呟きながら右目を覆う眼帯を取ると、金色に輝く瞳で朽ちた遺体を見つめる。
「ここでなにがあったのか。そして肉体が朽ちてなおもここに留まる強い意志、見せてもらえますか?」
━━ジジッ
ノイズが走ると、薄暗い部屋で木の椅子に座る男の姿が現れる。
机には様々な資料が積み上がり、周囲も散らかっていてお世辞にも綺麗とは言えない状況。資料に描かれている図や男の周囲に散らかっている物が石や鉱石であることから、この男が鉱石に関係するなにかをしていることは読み取れる。
「ああっ! くそっ」
薄くなった後頭部を両手でかきむしり苛立った声を出した男は、神経質そうな顔をさらに険しくして机を叩く。
「あと少しなのに。あぁくそ! あと少しだけ伝導率が上がれば……」
両手でバンバンと机を叩く男が立ち上がる。
━━ジジッ
同じ薄暗い部屋だが、男の表情は先ほどとは打って変わって明るい。
「これは⁉ この鉱石はどこで買ったやつだったか……ああ、冒険者から直接買い付けたやつか。たしか店では買い取ってくれなかったって言ってな。あの冒険者を探すか」
━━ジジッ
ダンジョンの中を進む数人の男たちの後ろに、神経質そうな男はいた。
「アブニールさん。この先にゴーレムがいるから俺らの言う通りにしてついて来てくれ」
「ああ、分かった」
返事はするものの、壁を小さなピッケルで叩き鉱石を採取するアブニールと呼ばれた神経質そうな男を見て、冒険者たちは怪訝そうな表情をする。
「なんであの人ついて来たんだよ。俺らだけで行けばいいだろう」
「金払いはいいんだから文句言うなよ。それよりも周囲に人はいないか? ゴーレムを使ってここを抜けられることを他の奴らに知られたくないからな」
「大丈夫だ。まあ分かったところで簡単にマネできるものじゃないけどな」
ニンマリと笑う冒険者を余所に、アブニールはダンジョンの壁の鉱石を採取する。
━━ジジッ
水が流れる広場の中心にいる冒険者とアブニールたちは、地面に落ちている鉱石の欠片を拾いながら目的の鉱石を探す。やがて目的のものが手に入ったのかアブニールは大切にバックの中に鉱石を入れる。
「ところで行き止まりに見えるが、ここからはどうやって出るんだ?」
「あぁ、行き止まりに見えるが実は帰りだけに使える隠し通路があるんだ。それを出すためには貢物が必要でな……」
「おい」
アブニールの問いに答えていた冒険者が他の冒険者から注意され謝る。
「まあ、ここから出られるなら問題はないのだが、ここにはもっと秘密がありそうだな」
そう言いながらアブニールは壁や地面を丁寧に触れ、他になにかないかを探索し始める。そんな様子を呆れて見る冒険者たち。
やがてアブニールが複数の石の欠片を拾って首を傾げる。
「おかしい、この石は全て同じ形をしている」
「そんなにおかしいことなのか?」
石の欠片を見るアブニールの横にきた冒険者が尋ねると、アブニールは大きく頷き周囲の壁に触れやがて欠片を水があふれてくる穴にはめる。
すると突然開き始める壁を見て皆が驚く。そしてすぐに閉まってしまった壁を見て、再び水があふれ始めた壁に石をさし込んだところで二人が壁の向こうへ足を踏み入れる。
だが、その瞬間下に空いた穴に落ちてしまう。そのまま無情に落ちていく壁に断末魔ごと押し潰されてしまう冒険者たち。
突然の出来事に混乱しつつも帰ろうと提案する生き残った冒険者の制止を振り切り、アブニールは水に押されて落ちた石を拾い、再び穴に差し込むと走って壁の向こうへと穴を飛びこえ行ってしまう。




