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小さな道を抜けた先には、わりと大きな空間があった。シルシエが首からぶら下げているガラスのランタンを照らすと、薄暗い空間の様子がなんとなく確認できる。
シルシエは壁に寄りかかって座っている、遺体や白骨死体を調べる。
「外傷もほとんどなし。死ぬ前の記憶を見るにほとんどが餓死か……。あの針の通路を突破できた人たちはいるけど、こっち側にはゴーレムがいないから帰れないし、パッと見たところ通路もないから、ここで衰弱してしまったわけか……」
シルシエは再びランタンの明かりを頼りにして辺りを見渡す。半径十メートルほどのドーム状の空間に数体の遺体があるが、その多くが一ヵ所に集中している。
「水が流れているのは優しさ……ってわけじゃなさそうだね」
壁から滲み出て地面にある窪に溜まって、雑に地面の上を流れていく水の周りに集まり重なっている遺体を見てシルシエは呟く。
「閉じ込めて衰弱させたり、拷問したりする系の罠は嫌いなんだよね。命を循環させるんじゃなくて、押し留め、尚且つ苦しめるのはね、悪趣味だと思うんだ」
誰に言うわけでもなく呟くシルシエは壁を丁寧に触れながら歩く。そのまま一周して水が染みだす壁のもとに戻ってくる。
水が染みてくる壁の周辺を小さなハンマーで叩きながら耳を傾け音を聞いていたシルシエが周囲を見渡すと、数個の石ころを拾う。
「へぇ~石の形が全部一緒だ」
自分の掌にある石ころの形が全く一緒であることに感動というよりも、呆れたような表情でシルシエは一つの石ころを摘まんで水が染み出てくる穴にはめる。
隙間なくピッタリはまった石ころは壁の一部となり、溢れ出していた水が止まる。そしてドンッ!! っと大きな音をたてシルシエの立っている場所から真反対の壁が突然真上に上がって入り口ができたかと思うと、今度はゆっくりと下がり始める。
「時間制限ありのヤツ⁉」
シルシエは慌てて閉まり出した入り口に向け走り始める。大きなリュックを揺らしながら走るシルシエは閉まる壁の下に目をやると、ジト目になり小さなため息をつく。そして今にも閉まりそうな壁と地面の隙間を頭から飛びこんで、反対側の空間に身を投げる。
「っと」
リュックをクッションにして、前転して器用に起き上がったシルシエは目の前で締まる壁に目をやる。
閉まる壁が地面に触れた瞬間地面がパカっと開き、穴が現れると壁は穴の中まで落ちて止まる。
「地面に触れて滑り込んだら落とし穴に落ちて壁に潰されるってことね。これはなかなか陰湿な罠だ。そもそも、命を繋ぐ水を塞がないと道が開かないし、時間が経って弱った状態で気づいたら走れないとか、いろいろと意地の悪さを感じるダンジョンだよ本当に」
口を僅かに尖らせ文句を言ったシルシエは閉まった壁に背を向けると、先へと足を進める。




