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1

 山にあるダンジョンの地下三階に広がるツルツルの岩肌でできた床は、氷でもないのによく滑る。ここに必要な道具はスパイク付きのブーツとピッケルである。


 金色の髪を揺らす、少年とも少女とも言える中性的な顔立ちの人物が背負うリュックは、パンパンに膨れ上がっており、サイドのポケットにも物があふれている。


 うっすらと額ににじんだ汗を拭う人物の右目には、幼い顔には似つかわしくない黒い眼帯が当てられている。

 左目の黒色の瞳を地面に向け、ツルツル滑る床に足を取られないようにスパイクを装備したブーツでそっと歩く。


 やがて目的の場所に着いたのか立ち止まると、傾斜の先にあった地面の切れ目を覗き下をじっと見つめる。


 顔を上げリュックを下ろすと、中から道具を取り出す。準備が整ったのか地面に鎖を置きハンマーで杭を打ち始める。


 カンカンと鉄が石を砕く音がダンジョンの中に響く。


 手を止めて鎖を引っ張り強度を確かめると、鎖を切れ目の方へ投げ下に向かって下ろす。


 大きなリュックから小さなリュックを取り出し、中から必要そうな物を吟味し取り出すと小さなリュックに詰める。


 そして鎖を分厚い皮の手袋を装備した手で持ち、切れ目の下へと下りていく。


 壁にスパイクを立てながら下りていく先は暗く、下りて行く人物が首に掛けているガラスにベルトが付けられている物に手で触れると、ぼんやりと光を放ち周囲を照らしてくれる。


 ガラスのランタンが照らした光の先に見えるのは、地面から生えた無数の針。


 針と言ってもその大きさは大人ほどあり、剣に近い形状をするそれが床から無数に生えているのである。


 左目でじっと見つめるのは針に刺さって亡くなっているであろう死体の数々。


 白骨化した者や、腐乱して半壊している者。やや男性が多いが、年齢は様々な死体の中から、一人の男性の死体を映した黒色の瞳が止まる。


 スパイクを刺していた壁を蹴ると針の横を蹴り一本折ってしまう。それから何度か壁を蹴っては足の届く範囲の針を折れるだけ折ると、地面に着地する。


 そしてそのまま先ほど瞳に映した男性の遺体の前に立つと、腰のベルトに掛けていたハンマーで叩いて針を折って男性の遺体を下ろす。


「すぐに見つかって良かったよ」


 まだ幼さの残る声を出した眼帯の子は手際よく男性の遺体を布で包み、その上からベルトで縛り固定すると、ベルトに付けた金属のリングに紐の付いたフックをはめ紐を持って自分は先に鎖を使い上がっていく。


 上へと上がると中央に丸い輪っかが付いた杭を取り出し壁に打ち付け固定し、輪っかに滑車を掛け下から引っ張ってきた紐を掛ける。


「よいっしょっと」


 眼帯の子が紐に体重を掛け引っ張ると、下に繋がっている男の遺体が持ち上がる。


 ズリ、ズリッと壁に擦れながら上がっていくその下で、先ほど折った針の下から勢いよく新しい針が生えてくる。


 上へと引っ張られる男の遺体に針を伸ばす姿には、一度捕らえた獲物を逃すまいとする意思すら感じてしまう。


「ふぅ~、なんとか引き上げれた。僕が力持ちで良かったね」


 眼帯の子は引っ張り上げた遺体の紐を緩め包んでいる布の顔の辺りを開く。


 顔と首が完全に見え、肩と胸元辺りが一部見えている状態で眼帯の子が左目で遺体を観察する。


「あった」


 何かを探し動いていた左目が首にあるチェーンを見つけて止まり、手を伸ばすとチェーンを引っ張り先にあるタグを摘んで刻んである番号を見る。


「ちゃんと冒険者登録タグを持っている子は好きだよっと……」


 眼帯の子は小さなリュックから紙を取り出すとタグの横に並べる。

 そこには人相書きと名前や性別、特徴から口癖まで書いてある。そして一番上には『人探し』下の方に最後に見た日、依頼者の名前、報奨金の文字がある。


 眼帯の子は名前の横にある『冒険者登録番号』を目で追いながらタグの番号を指でなぞっていく。


「間違いないこの人だ」


 眼帯の子は安堵のため息をつくと、男性の遺体を覗き込む。


「はじめましてアーランドさん。僕の名前はシルシエ。今から君を探していたお母さんのもとへ送るけど、その前にちょっとだけ見せてよ」


 そう言うとシルシエは右の眼帯を取り右目をさらけ出す。


 眼帯の下から現れた瞳は、満月のように黄金色にキラキラと光り輝き、アーランドの血の気のない顔を映しだす。そして瞳には黒い蕾の文様が現れる。


「アーランドさん、あなたはどんな最後を見たんですか?」


 シルシエの言葉に反応するように、アーランドが動かないはずのまぶたをゆっくりと開ける。

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