健闘の証
・・・死んだ?
すごい勢いでぶつかったもんな。痛ったそうだった。
魔法で風を起こして木の葉を舞い上がらせて、多少の目くらましになれ、と思いつつ風を起こした反動で自分の体が浮いた。その先に大木があったから、左折や~と思ったらオオカミが俺のそばを抜かして、大木に激突した。
自転車で電柱に激突したのを思い出す。あれも結構、死ぬって思うよね。男の象徴がね、こう、なんていうのかね、凝縮されてね、すんごいイタカッタ。
オオカミさんはピクピクと痙攣してる。うわ、痛かったんだろう。
助かったんだけど、後味が悪い。
ラノベ主人公みたいに天才!すんごい!みたいな策士だったらいいんだけど、完全にこのオオカミがポンコツなだけだからな。
めっちゃ必死に追ってきたし、腹でも減ってたのかもしれない。百獣の王のライオンだって、狩りが失敗する時があるんだから。
食事のありがたさが分かるぜ。感謝、永遠に、マイ親鳥。
体はもうヘトヘト。もちろん命懸けの鬼ごっこしていたせいだ。
それでも相手のことを讃えたくなる。感慨深いというか、よく分からないというか。・・・可哀想!
このまま放置は余りにも可哀想じゃありませんか!?
それにこのオオカミさんには借りがある。
ある意味、俺が迂闊すぎた。弟カラス、末っ子カラスとは比べものにならない程の知識があるし、逃げ出すくらいはできるだろうと。結果、こいつがポンコツでなかったら俺は死んでいた。
ポンコツでよかった、ありがとう!
じゃない、たかをくくっていたんだ。
・・・カラスだけど!てか、たかをくくるのたかをって鷹?
ヤバイッ、分かんなくなった!一生分かんないままになる!このモヤモヤを抱えて生きていくのか、俺は?
だから命をもうちっと大事にしなきゃいけない。カラスらしく目敏く生きていく。
この世界にはまだ無関心なれやしないんだから。
気合を入れ直していると、もう目的地についた。
大の大人の背丈ほどぐらいに垂れ下がる植物の実。
黄色く色づき丁度食べ頃を示している。四、五が集まって実り、大きさはミカン程。人間の手で包むぐらいだ。
そこまで大きい木ではない。一つ一つ枝を登って、実へ近づいていく。
そして、疑念は確信へと変わっていく。
この実、明らかに日本の枇杷なのだ。数回しか食べたことはないが、枇杷と姿形はほとんど同じ。ほのかに甘く匂いがする。優しくバニラみたいに軽い。
実は、巣で暮らしていた時にはもう見つけていたのだ。
緑色と茶色のしかない森の世界で、黄色はひどく場違い。カラスに転生して目も良くなったおかげで、点々と枇杷似の実を見つけていた。
実を一つ一つ嘴で捥いでいく。カラスの嘴の力じゃ結構な労力だ。十個ほど取れば十分かな。
俺が食べるわけでもないので地面に落としていく。オオカミさんは多少の傷なんて気にせんでしょ。それにオオカミって果物食うかも知らんし。
で、また一個一個嘴にくわえて、オオカミさんのそばに置く。この瞬間はオオカミさんも俺もビクビクしてる。
じゃあ、毒身役よろしくー。・・・にちゃあ^_^。
枇杷似だからって、毒でもあったら死んじゃうからさ。命は大事にしないとね~。
確かめる方法なんてないんだけどね。ずっと見守るわけにもいかないし。死ぬだったら、ここで死んでくれ。それぐらいかな。再会できたら味の感想でもお願いするか。
いや良い事したわ。じゃあ、我がお巣に帰ろっ!
周りを見渡せば、倒れているオオカミ、木、木、木しかない。
・・・ここはどこ?・・・私はダーレ?
-"カアアァァーーーー!!(ママーーーーー!!)"
時間帯は逢魔が時。もう少しで夜の時間がやってくる。
ビクッとオオカミさんの体が反応する。やべっ、うるさすぎた。
遭難した時は動かない事が一番。だけどオオカミさんがいるから無理。もういつ起きてもおかしくない。一刻も早く逃げた方がいいぐらいだ。
木に傷でも付けて一回逃げよう。巣に帰る方法は後からでも考えられる。
カラスはオオカミさんが向いてる方向とは逆に歩き始めた。その足取りは鉛のように重い。ギコギコとロボットが歩いているみたいだ。
行き末も安定せず、右に行ったり、左に行ったり、千鳥足だ。重心も体幹もあったもんじゃない。
左におっとっとっと、左の足の鉤爪が地表を掻いた。身体を立て直すことはできず、翼は地面についた。
起き上がらなきゃ。
木は横に伸びたまま。首を上げることもできない。
疲れてたんだな。カラスになって本気で身体を動かすのだって初めてだったんだ。
そりゃ体力もないし、身体の調子も分かんない。限界を超えて動かした続けた反動だ。
大人になれば身体の限界なんて勝手に察するし、無理はしない。
こんなの無邪気なのは小学生ぶりだ。
疲れすぎて寝れない。究極的な疲れはそんな感じだ。倦怠感もあるし、精神的にも行動を起こそうとする元気がない。
あ~あーーあーあ~。
オオカミさんからは身体を隠さなきゃ。それだけ頑張れ、俺。
鯉が跳ねるように、いや芋虫のように木の裏に移動していく。
後は運だ!
命大事にって?
-撤回です!
これ以上動いても死しんじまう。結果は同じ!よって運に賭けることにします!
生か死かの二択です!
鳥生の赤ん坊の時に来た強烈な眠気。全身の力は抜けきっていく。抗うことはできないほどの眠気だ。世界が明滅までしてきた。
眠る直前に、あのポンコツオオカミさんの顔が覗いた。
ポンコツオオカミさんなら安心だ。
溶けるように俺は意識の水底に沈んだ。
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