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翼の行方  作者: カワウソに恋する子
親離れ
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巣立ち

その時は突然やってきた。


幅を利かせていた暴君、末っ子カラスが鷹揚に巣の縁に立った。羽を閉じたり、開けたりまるで準備運動のように羽の開閉を繰り返す。足踏みしつつも巣の縁へ縁へと寄って限界まで中空へと近づていく。


ここまで行けば、誰だって何をしようしてるか分かる。これは人生の挑戦だ。


末っ子カラスの表情は伺いしれない。見えても何の感情なのかは分からないだろう。その目はきっと下なんて見ていない。遍く偉大なる空を見つめてる。


そして、末っ子カラスは中空に飛び出した。


自分の背丈以上ある羽を水平に広げる。今まで満足に広げることもできなかった、解放された姿はとても雄雄しい。後ろなんて気にしない。弟カラスも俺のことももう見えていない。


見るのは酷く澄み渡る、酷く綺麗な空。


そこに一点、黒が混ざる。


黒が浮き上がる。


翼が瞬く。また黒は昇る。


その矮小な体躯は落つる。


え?落ちた?


末っ子カラス・・・君のことは忘れないよ。末っ子の代わりに俺精いっぱい生きるから!色んな景色見てくるから!


暴君でも、わがまま野郎でも悪い奴じゃなかった。悪意はなかったことは断言できる。自由気ままだったけど、行動力あったし、ちゃんと優しい。末っ子らしいカラスだった。


さっきまで展翅していた姿は雄姿として目に焼ついている。なんで止めなかったたんだ。今さら後悔の念が頭に憑りつく。


咄嗟に瞑った目には末っ子カラスとの思い出が巡る。覚悟をして目を開ける。巣の縁に立って末っ子の最後の姿を目におさめようとした。


原型がなくなっていても、俺は末っ子の行く末を見届けようと。


トコトコ、バサバサ。


あ、無事ですか。あ、よかったです。とても、ほんとに。無事なら無事ならねいいんですよ。


上を見上げ展翅して自分の存在をアピールする。歩けてもいるし、羽を動かすことも出来ている。軽傷どころか、無傷。俺の心配を返せと言いたいところだ。


"カァー"と末っ子にしては情けない声も出している。暴君なので基本弱音を吐くことはない。気に入らないことは自分で解決するか、力で解決させている。しきりに羽をバタつかせたり、くるくると同じところを回っている。


そうか、飛べないから巣に戻って来れないんだ。さすがの暴君も自分のしろに戻って来れないのは狼狽するのか。


救ってはやりたいが、俺は落ちたくないからな。絶対に嫌!飛び降りたくない!


痛いに決まってる。高さに慣れても、高い所から飛び降りるのは話が別。ビビるわ。下に尖がってる枝でも腹がぶち刺さったらそこでお陀仏。そんな死に方、死んでも死にきれない。ゴキブリでも、蛆虫でも、ミジンコでもいいからもう一回生を受けたくなる。


末っ子は巣のある木に寄り添う形で、木の葉や枝を集め始めた。深底の器型に重ねていき、すっぽりと自分の座る位置を確保する。座り心地は木の葉が敷き詰められてあっちの方がよさそうだ。


末っ子は簡易的な巣を作って、玉座にふんぞり返った。もう末っ子はどこに出しても恥ずかしくない暴君に育ったらしい。その成長、兄ちゃん、複雑。


何ができるわけでもないが、万が一があるから末っ子を見守る。外敵の姿なんて見たことはないが、広い森だ。それも転生先。警戒してもいいだろう。ふんぞ末っ子の姿を見ると心配の文字はあまり必要なさそうだけど。


-"カアァー、カアァー"


睡魔の手にかかりそうな時、末っ子が鳴いた。・・・これで起きたわけじゃないからな。ちゃんと末っ子の身を案じてた。


これまで俺たちの救援を諦めていた末っ子が鳴いたんだ。ってことは十中八九親鳥だ。


いつも通り、ゆっくり旋回しながら高度を下げてくる親鳥。一転、直線に降りてくる。向かうはやはり、末っ子。親鳥が焦って降りたせいで、末っ子の巣は飛ばされる。だいぶお椀型の巣は欠けてしまって、次はない。


"ガァガァ!ガァーガァ!"


珍しく親鳥が鳴いた。森中に聞こえそうなかなり声量。おそらく怒っているのだろう。そういえば、親鳥は聖母のようだった。俺らがご飯の取り合い(ケンカ)が起きようと怒鳴ることはなかったし、不満はない程ご飯を届けてくれた。


肝心の張本人バカの様子は親鳥に重なって見えない。


子猫が母猫に首をくわえられるように、暴君も首根っこをくわえられる。怒られて意気消沈なのか、嫌がる素振りも、抵抗も末っ子はしない。親鳥はふわりと体が浮き上がり、翼が中空を扇ぐ。


なんてふてぶてしい。・・・これが暴君ッ!


首根っこをくわえられながらも戻ってきた末っ子は、当然という顔ぶり。反省した様子はない。巣に解放されればスン、といつも通り自身の定位置を確保して座る。


"カァーカァー"


末っ子が鳴いて。ご飯を要求。


太陽も落ちはじめ、こちらの世界も夕暮れ時。紫雲も混ざり、新芽を付けている木。落ち着て見れば、とてもいい情景。


"カアァー"


夕ご飯としてぴったり。


ってちょっとは反省せい!この末っワガママめ!


"カァー!カァー!カアア!カアァー!?"(親鳥はご飯を分けるために戻ってきてくれたんだけど!なぜ!いましがた!怒られた!末っ子が!要求する!?)


"クァー"


親鳥も呆れてご飯を末っ子に与える。なぜなら末っ子が鳴きやまないから。


"ブスリ"


"クアァー!"


バサバサと弟カラスが忙しなく羽を動かす。


お前はどれだけ寝れば気が済むんだ?弟カラスよ・・・。実は一番お前がヤバイ奴だって兄ちゃん知ってるぞ。ご飯はちゃんと食おうな?


俺らにご飯を分け与え、満足げな親鳥。親鳥はまた巣の外に跳ぶ。体はふわりと浮いて、翼を動かし空を跳ぶ。


いつもはご飯の余韻で親鳥の飛び去る姿など気にしていなかった。


けど、やっぱりおかしい。やはり、ここは異世界だからか?もしかして、魔法!?

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