オレ、ソラトベル。オマエは?
精神感応テレパシーだから声も出ないし。別に悪いことはないよ。
「・・・今は依頼クエストに集中するんだ」
「甘味は貴重だからわかるけど暴食は罪だからね、ルレスト」
二人ともオブラートには包んでいるが、ちょっと刺があるような言い方だ。
一口も食べてないのに・・・。それに全部食ってもお腹いっぱいになるぐらいの量しかないよ。
後ろからも前からも甘い匂いがする。だが、食うことは許されない。こんな生殺しはひどいよ。
休憩の時に言い出したたかったけど、難しい話を始めるしオオカミ達が移動してきたし。
「ガオォォ!」
耳を劈つんざく、唸り声。俺たちは一斉にその音源の地表を見た。
下にはさっき見たオオカミの姿。数は一体。あの群れが散り散りに広がっていたのだろうか。見事に警戒網に引っかかってしまった。
「行くよ!」
蜻蛉ファルームは一気にスピードを上げる。俺も続いてありったけ風を起こして追随する。癇に障ることもないし、戦う理由もないので大人しく逃げる。逃げたもん勝ちだ!
それでもオオカミの姿は樹木に呑まれていかない。銀灰色が日の光を反射させている。オオカミ達の巨体は空の道の利点さえも消していく。
鋭い眼光は縦に割れ、憎しみすらも籠っていそう。まだ威勢も十分!ちゃんと俺たちを殺したがってる。・・・仲良くしましょうよぉ!!
「・・・仲間が呼ばれる前に殺すか?」
「復讐されるわよ!?」
「・・・このままでは、どっちみち無理だ。ルレストが逃げ切れん」
確かにもう羽根は最大出力だし、オオカミを引き離せていない。疲れも微塵として見えない。
「町のみんなに申し訳が・・・。けど、生き残るためよ!覚悟を決めまs-「ここは、俺に任せて先に行け!」
「だから、ルレストのスピードじゃ無理なの!だから-「俺を信じろッ!」
「・・・分かったっ。何かあるのね!?ルレスト、絶対に無理しないで。集合は町!」
「・・・いくぞッ!」
「おう、任せとけ!」
蜻蛉ファルームの羽音が遠ざかっていく。オオカミさんは歯肉を見せながら、唸っている。
・・・あぁ、言えたよ!人生で言ってみたい台詞セリフトップテンには入る言葉をっ!背を見せて、オオカミと対面しながら"先に行けよ。俺を信じろッ"だって!くぅ~イケメン。これ、ファンシー、俺に惚れました。ドキドキ、ズキュンです。
ファルームもなんか飛びづらそうにしてたし、俺にペースを合わせてくれてたんだろう。
表情とかも分かんなかったけど、日本の空気読みも役に立つわ~。こんなに旨い場面を用意してくれるなんて。
「ガルルゥウ」
いくら唸ったって意味ないでしょ。
だって、私はソラ、トベルンデス。アナタ、コウゲキトドカナイネ。
ワタシ、ムテキネ!!-かかってこい、カス!
安心安全が保たれてない所であんな気障キザな台詞言えないって。ブラック企業じゃあるまいし。・・・前世のことは忘れようっ!
「ガアゥ!」
余裕綽々の俺に我慢できなくなったのか、突如オオカミは走り出す。
樹木に向かって走り出したと思ったら、樹木に跳ぶ。そして、樹木を蹴って俺に刃を届かせようとする。だが、到底届かない。小学生やら中学生やら高校生で憧れる壁ジャンプの方式では無理だ。その鋭利で磨かれた爪はあってもなくても変わらないのだ。
もう一度、オオカミは最寄りの樹木に跳びかかる。
諦めない心は認めてやろう。けどお前、魔者マモノだろ?もっと頭使わなきゃ。ポンコツオオカミさんと同じになっちゃうよ?
生後一か月の赤ちゃんに負けちゃいますよ~。ベロベロバア~。
二段ジャンプは失速し、届きそうにない。
エンダァァーーイヤァァーーー!!タラ~タタァ~。
-ウワァ!?
なぜかもう一段跳んできた。
鋭い爪が俺の顔面を突き刺してきた。イナバウアーを実生活に活用すると気があるとは。いや、マトリックスの方か?空気を切る音が間近に聞こえたのはさすがにビビる。
正体は魔法ですね。バカじゃないで、分かるんすよ。
しれっとオオカミは俺より上の枝に乗っている。次、生まれ変わったら豹ヒョウをおすすめするよ。
それで
土下座って間に合いますか?一応、準備万端ではある。
ファンシー、ファルーム・・・俺の秘策はここまでだ。もう何もないよ。
まだ何もしてないじゃないですか。知能あるなら、仲良くしましょ。殺し合いなんて不毛っす。
俺、バカじゃないで分かるんです。魔法の対策ってどうすればいいのか、分かんないのが。
どうせ、風とかの魔法で足場を作ったりしたんでしょ。飛べるアドバンテージなんてあってないようなもんじゃん。飛ぶのだって大変なのに・・・ずるいっ!
明らか、戦闘民族だもん。俺だって爪とか牙欲しいよ。歯だってないのに。
「ガゥルル」
オオカミは俺を見下し、声をどこか貶すような響きがある。俺の命が風前の灯火のことを理解している様子。
いつ他のオオカミが顔を出してもおかしくない。状況は考え得る最悪。自然が厳しいすぎて、もう涙目。