異変
森の新鮮な空気とマイナスイオンを吸いながら、森の奥へ進んでいく。
もう町は樹木の林立に隠され、代わり映えしない原風景。
二人は周りを見渡して、魔者たちを警戒しているし話しかけずらい。
無駄にコースを攻めたりしてちょっとだけ遊ぶ。なのに、蜻蛉先輩との距離はちょっとだけ離れていく。なんで?
しばらくすれば、森が深くなっていく。
樹木の間隔は広くなり、一つ一つの幹が大きくなる。地面の方も草木は減り、緑の苔が付いているように見える。
樹木の広げる葉っぱのせいで碌に下に光が届かないからだろう。緑の薄く染められた陰に包み込まれ、樹海という感じがする。時折差し込んでいる木漏れ日だけが救い。
・・・白骨死体は勘弁してほしいです。俺の目からケツから色々出てほしいなら別のですけど。死んでまで見たくないでしょ?烏の脱糞シーン。
あ、そうそう。どうでもいい豆知識なんだけど、
首吊り自○すると、お陀仏した後に糞尿がちゃんと出るから断食してから死んだ方が迷惑かけないよって話。
同僚とか友達に話すと、引かれそうだからどこかで披露してみたかったんだよねぇ~。
「あったわ!ビロクワの実よ」
方向転換する、蜻蛉についていけば、懐かしい甘味の記憶が思い出される。じゅるっ、デュフフ。あっと、涎が出てしまった。
「ファルーム近くの枝に降ろして。ルレストは私の近くに」
枝と言っても、ここらの樹木の枝はちょっと太い幹ぐらいある。
枝に降りたファンシーはスキップを踏むかのように果実に近づいていく。
落ちたら死ぬよ?大丈夫?
こっちの心配をよそに果実をもぎ取り始めるファンシー。スイカより一回りほど大きいだろうか。もぎ取るだけで一苦労。ヘタを何回もクルクルと回している。
「ルレストはちょっと枝に乗ってくれる?」
もぎ取った果実は落とさないように両手で持って抱え込む。たわわな果実が変形する。
「・・・はいっ!何でしょうか?」
美味しそうだなぁ~って思ってただけだよ。変なこと考えない方がいいと思います!
ファンシーが枝に果実を乗せ、おもむろに背に持っていたバッグを取る。
バッグから出てきたのは折りたたまれた大きなバッグ。たぶん俺はこの時変な顔をしていた。
「これに詰めるから着て飛んでね」
なんか釈然としないけどいいでしょう!
ファルームはその間旋回して、周りに異常がないか確認してくれている。
俺の大きなバッグが入っていたバッグに一つを詰めて、グッドポーズ!
後は町に帰るだけ。けど、帰るまでが依頼です!寄り道なんかはしないようしましょう。
「回収は終わり。外縁部まで一気に飛びましょ。そこで軽い休憩取って町に。じゃあ、出発」
ファンシーが蜻蛉の鞍に乗って出発。俺の背には重いものが追加された。
これが出来るのは俺だけなんで、まぁ強者の義務みたいな感じっすね。俺がいないと本当に何もできねぇんだから。ったく、かったりなぁ~。
飛んでる最中だけど肩を回してみたりして。
・・・ちょっとそこまで飛ばすとは聞いてないっ!待って、ごめんなさい!十秒、いや五秒でいいんで!
追い付いた頃には、
ふぅ~やっと一息。
「・・・一応だが、さっきの場所にツキカゲオオカミの足音が多くあった」
「え?あいつらが住んでいるのはもう少し奥じゃ?」
「・・・勘づいたかもな」
「報告はしときましょうか」
ふむふむ、ツキカゲオオカミ?なんも話に入れん。ちと寂しい。
今世での記憶のオオカミと言えば、ポンコツオオカミサンですね。この枇杷似を丸呑みにしていた。
ゴゴゴゴ、と地面が揺れる感触。地面が揺れれば、樹木が動揺しているかのように木の葉がざわめく。
地震とは何か少し違う。だんだんと大きくなり、揺れの最大値が近づいてくるのが分かる。
地面が揺れる音と何かを叩きつける音が加わる。ここで大体の察しはついた。
横を見れば口に手の甲を当てるファンシー、枝に足を付け腹と枝をくっつけるファルーム。俺も限界まで身体を縮める。
樹木の間から覗くのは灰銀色に輝く毛皮を纏って、三角形の隊列を組んで走るオオカミ達。
総勢十数体が走り抜けていく。地を踏みしめるためか、土ぼこりは起きない。地ならしとその音で脳自体が揺らされる。頭痛が響き始める。
見つからないことを祈るだけ。
あの町なんかこの走り抜けるだけで粉砕されそう。今世での戦車みたいなものだ。
「・・・はっ、はっ、はぁ。」
音と揺れが消え去った。いつの間にか力んでいた身体の力を抜く。膨らんでいた風船のように自然と息が漏れた。
「・・・奴らがここまで出てくるか」
「少々森が荒れるかもね。取りあえず、帰りましょうか」
ここでも話には入れない。ぴえん、って感じと。
少し重苦しい空気で帰路につく。
二人が何を心配しているかは知りませんけど、俺は空気の読める男なんで静かにしとます!
「ビロクワの実って味見ダメ?」
町で食べると見つかるかもだから、ここしかないんよ!