名前付け
美人さんは俺の前に手を出して、一呼吸。
その白魚のように透き通った手に、何かが集まるのを感じた。たぶん、これが魔力。
風や熱だと自然に分かるように直感で分かる。
この世界では魔力を知覚する六つ目の感覚機能を生物は備えているのか、それとも、前世の世界に魔力がなかったのか。
行くよ?と美女さんと目で語りかけてきた。
手から溢れ出る水。
三層の噴水の形を作り、美人さんの手の横を落ちていく。
美人さんが微笑むと、地面に水が落ちていく前に凍っていった。
下の方からポロポロと崩れていくと、氷の結晶となって舞い上がる。
俺の頭上の一点に集まれば、最後はダイヤモンドダストのように空中にキラキラと消えていった。
ひんやりと少し冷たい。
思わず、羽で拍手をしたり、威嚇のように羽を広げてみたり。俺に精神感応を使えないのでどうにか体で素晴らしさを表現する。
タネも仕掛けもない、これが魔法!
詠唱もないし、形も自分でも作り出せる。この自由さこそが魔法の醍醐味だよな!よく分かってるわ!
宴会とか接待とかでこんな魔法使えたら、絶対盛り上がったのに。俺もこんな一芸が欲しかったよ!
"それ、俺にも教えてください!"
"適性ってなんですか?"
首を四十五度右へ曲げる。
"適性があれば、その属性の魔法を使える。なければ、使えないってこと。あなたは確適性の風を持ってるでしょ"
後日聞くと、確適性とは、その種が必ず持つの適性のようだ。森の賢者は風。飛ぶために必要だった推測される。人間は確適性を持たない。
しかし、家系によって適性が偏ることがある、ということが分かっているらしい。
"属性って?"
首を九十度左へ曲げる。
"え~と、自然五元素の火、水、土、風、光と力、刻ね。適正は最大の四属性って言われてるわ"
"お、俺にはどんな適性があるの!?"
そんな縛り聞いてないよ!風は確定、後は三つ。なんか格好いい刻は欲しい。
けどやっぱり、王道は火か。けど、けど光を手にしたらそれこそ無敵!来い、刻、火、光!
"まだ知らないの?私が力の適性持ちでよかったね。判別できるのは力の特権で、お金取ったっていいんだから"
美人さんは俺の胸に手を当てる。そのせいで顔だって俺の嘴のすぐ隣。野生動物になって鋭くなった目は毛穴まで見えそうだ。
え、なになに。睫毛長っ!肌モチモチそう、触りてぇ!
数瞬の間にきもい思考が駆け巡ったが、許してほしい。
こんな美人さんの鼻息が聞こえるまで近づくことなんてなかった。それに、適性を調べるなんて緊張するじゃん!現実逃避ぐらいさせてよ!
この心音を聞こえてると思うと、鳴き散らかしてもいいぐらいなんだから!必死に自分の体抑えてんの!
"魔法を使うって強く願って、3、2、1"
目を瞑って、周囲が変貌するのを想像する。こんな自由に望む世界に、魔法を使って!
自分を中心に上昇気流が巻き上がる。これが風の魔法。
胸から人肌の温度と軽い感触が消える。
"風、だけね。人間でも二つの持つのは珍しいし"
あ、砂になりたい。サラサラと消えたい。この風に乗ってどっかに飛んでいきたい。期待させんな!何が最大四属性じゃ!
美人さんずるいよ、二属性持ちは。
もう一回やってみよう!偽陽性的なこともありえるやん?
"ちなみに力と刻って何ができるん?"
"力は魔力を魔力のまま扱うの適性。念動力に、強化、増幅魔法を使えて。刻は魔法陣とかで大規模魔法とかかな。身近なやつで言えば、刻印で剣を強化ができる。道具も必要だし、適性者も少ないし一番レアだね"
そんなこと言われたら、よけい欲しくなるよ、刻。けと、俺には適正なしと。
"聞きたいことはこれで完了?"
"最後に一個だけ。お名前はなに?"
"あれ、こんなにも話してたのに。私の名前はファンシー。貴方の名前は?"
"付けてもらっていいですか?今は名もなきカラスで"
一生使うかもしれない名前をファンシーに付けてもらうことに怯えはなかった。こんな美人さんに付けてもらえるなら感謝してもいいぐらい。
親鳥も息子とかって言ってたし、名前なんてまだ付けられてなかっただろ。たぶん。
"責任重大ね・・・。ルレストなんてのはどうっ?"
上目遣いで俺を気遣うような仕草。くっ、可愛い!
"ルレスト、ルレスト!俺はルレストで貴方の従魔!よろしく、ファンシー《マスター》"
"そう!よろしく、ルレスト!"
俺たちは目を見合わせて、笑い合った。