魔法ってなんですか?
薄紫髪は風に揺らしながら走っていく女性。
一段落がついたので女神は俺のご飯を取りに行ってくれた。優しすぎィィ。
聞いたのは地理や生物のこと。他に海の生物についてや魔獣、魔者の代表格とか。
人間の十歳程の体格で緑色の肌を持つゴブリンや豚を人間化させたオークは残念ながら魔獣分類。まぁ、あいつらは確かにバカなイメージあるもんな。
魔者の代表格に出てきたのは犬を人間化させたコボルト。そして、森に暮らす人間より長い耳を持つエルフやゴブリンほどの身長とオークの肩幅を持つ人間のようなドワーフも魔者分類だった。
コボルト・・・引っ掛け問題だろ。
地理の話で言えば、ここはウルハ王国という国らしい。武力や発展具合は中の上。交易と学問に力を入れている。
領土は発展度合いで言えば、明らかに小さく、大国にのし上がるためには領土拡大は必要不可欠だとか。それでも戦争に意欲的ではなく、どちらかでは消極的。ここ数十年は戦争はなく、平和な国らしい。
王のワンマンでも優秀な政治っぽい。
そのウルハ王国の辺境も辺境に位置するこの巨大樹の森。
一応国境ではあるが敵国を意識することはない。
この巨大樹の森が国交を断絶してるからだ。
樹が大きすぎて地面に浮き出る根で、馬車は通れなくなる。巨大化生物のせいで常に命の危険にさらされ、安全に通るなら並みの冒険者では手に負えない。
森はどでけえ山の二つの間に位置するため、左右からあっちの国に行こうにも山越えをしないと行けない。こちらも馬車は無理であり、手が入っていないため魔獣の見本市らしい。
おかげで隣国の情報はまったくもって入ってきません!と。
"はい、お肉!"
バケツ一杯に入っている生肉。桃色の生肉を鮮血が滑って滴り、下の方は不透明な赤い血にどっぷり浸かっている。
新鮮なのはいいことだ。だけど、俺の中の人間がまた一つ喚めいている。
世間一般の目はこんなもんですよね。・・・はい、どうせ味覚はカラスですから。もちろんおいしく食べますよ。
バケツに嘴を近づけると強烈な血の匂い。
パカ、と嘴を開ける。-かえんほうしゃ!!
・・・何も起きなかった。
なりきりったよ、心は完全にリザー○ンだったよ。魔法なんていざって時に役立たずなんだから。
生って本当に大丈夫だよな?人間が雑魚なだけだもんな。
そろそろ女神が疑い出してしまう。ここまで必死に運んでくれた好意を潰すわけには。
意を決して嘴で生肉をついばむ。歯がないので嘴で遊ぶようにして身を小さくしていく。小さくなれば上を見上げて胃へと押し込む。
ふんふん。こんな感じですか。一口、二口。大きい奴はもう噛むのが面倒なので、足で大まかにちぎって丸呑み。
あら、いつの間にか完食。確かな満足感を腹から感じる。
"血拭くからじっとしててね。足にもついてるじゃない"
嘴を差し出せば、黒光る嘴を優しい手つきで拭いてくれる。
そういえば、ユッケって旨いよな。
ナマコとかさ、ホヤって食べる時勇気がいるやん。ご先祖様はなんでこいつを食べる気になったんだろうって誰でも一回は思うだろ?
"はい、綺麗に出来たよ"
こんな美女に食後のお世話までされて。心が満たされていくよ。
あぁ、俺、勇気って意味がやっと分かった。
"どうかした?食べ足りない?お昼寝?私も眠いし、一緒に寝る?"
従魔最高かよ!目の前のことを大切にしなきゃ!
こんな女神を前にして他の事を考えるな!失礼、無礼。過去じゃなくて、今よ、今!
"まだ聞きたいことがあって、魔法について教えてください!"
手鳥足鳥お願いします!これこそ、俺の本題なんで、みっちり、ねっとり!
"魔法ね。私たちは魔法は意志の力。何かをしたい、何々してくれ、みたいなのを魔力を使って自然に干渉して叶えるものって考えてる"
"魔力っていうのは?"
前世での記憶を持ちこして、僅かな齟齬すら許したくない。魔法を自分が納得できるまで深く知りたい。
"体からのエネルギーと気力。だから、魔法を使えば肉体的にも精神的にも疲れが出る"
空を飛ぶ練習の時はあれじゃんか!肉体も精神にも来るからキツイに決まってんじゃん。
"魔力を使い切るとどうなるの?"
女神は頬に人差し指を当てて考える。
"う~ん、本当の意味で使い切ったら死ぬんじゃない?"
"ひぇ"
"大丈夫よ!その前に体を動かすエネルギーがなくなるから、意識を失ったりするんじゃないかしら。何かしら体が拒否反応を示すと思うわ"
体のリミッターと同じって感じだな。無理はさせないようにちゃんとストッパーがかかってる。
"使える魔法全部見せて!"
やっぱり最後はこれでしょ!カッコいい魔法は絶対にモノにしてやる!