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翼の行方  作者: カワウソに恋する子
親離れ
12/27

ここにいたい!!

みんな何をしても無駄だと分かっているから何もしない。組合長マスターと親鳥の動向を見守るだけ。


きっと精神感応テレパシーで話しているはず、賢者であるのなら。


一切の兆候なく組合長マスターの首が飛んでもおかしくない。親鳥からしたら、捕まえてたとも、殺そうとしてたともとれる状況。


ツンツン、硬いもので肩を突かれる感触。


鋭敏化していた私は咄嗟に身を引いた。


突いたのは雛だった。距離を取ったせいか、少し嘴が下がっている。


ここで雛に騒がれるのはまずい。無理に口角を上げて笑顔を作って笑いかけてあげる。


雛は嘴を開閉させる。しばらくしたら羽も広げて何かをアピール。陽気な烏なの?それともちょっとしたおバカさん?


あっ、と私は急いで精神感応テレパシーを繋ぎだした。


まだ依頼は失敗したわけじゃない。今、成功の芽は芽吹いているじゃない。


"-えてる、返事して!お願いだから!"


繋いだ途端流れてくる雛の意思。さっきからずっと私と話したかったんだ。精神感応テレパシーも知らないなんて思わないでしょ。けど、これで勝ち目は見えた!


"どうしたの?"


"-俺!家出してきたの!もう親とは会わなくていいんだけど!"


-家出ッ。雛は繋がった瞬間体の動きがうるさくなりつつも、必死に伝えてくれた。


だからこんな所に雛が来たのね!そりゃ、賢者にとっても予想外だわ。


賢者が家出ではなく、攫ったと勘違いされたら最悪。運が悪かったで済まないわよ!


"じゃあ、説得しないと。悪い人間じゃないよ、って。私が精神感応テレパシー繋いであげるから"


これで人間に攫われた線は消える。それで万事解決。その後はどうぞ勝手にどっか行ってもらいましょう。


"ちょっと待って!。心の準備が"


"早い方がいいんじゃない?ずるずる引きずってもよくないよ!"


ずべこべ言ってられないの。死刑場で文句言ったって意味ないでしょ。いつ組合長マスターどころか、ここにいる冒険者の首が飛ぶか分かんないだから。


"ほら、繋げるからね"


"まっ-"


賢者に精神感応テレパシーを繋ぐ。


すぐさま賢者は術者の私に目を向けた。特大な黒蛋白石ブラックオパールの視線と入ってくるのは煮えたぎるのような怒り。


首元に無機質な冷たい刃が当てられたよう。体が少し跳ねた。


けど、頑張るのは私じゃない。雛の大きな背中をゆっくり擦る。雛でもふんわりと跳ね返るほどの羽毛が蓄えられている。


"俺、ここにいたいっ!!"


雛の心からの叫びが私と賢者に響き渡った。


え!?ここにいるつもりなの!?さっき家出って!なんでこんな所に滞まるのよ!?


雛のいる横を向くともう姿はない。後ろにその体を縮めるように走っていく。まるで親から怒られたくなくて、逃げる子供のよう。


説明しようっ!


名もなきカラス:家出した!怒られたくない、ぴえん。助けて。(情けないガチ本音)


スファン:悪い人じゃないって説得しよう!(攫いの誤解を解く。後は勝手にどっか行け)


名もなきカラス:ここに居ても安心と、親に説得しろということですね!了解しました!!


『ここにいたい』、ここに見・参!!


名もなきカラス:言っちゃった・・・。怒られたくない、怖い。無理、漏らす。逃亡(無様すぎ)


スファン:はあぁ!?(意味わからん!絞めるぞッ!)


ことの顛末はこういうことだ。


ブチッ!


精神感応テレパシーが強制解除された時の音だ。けれど、私には賢者がブチ切れた音にしか聞こえない。


賢者を中心にして同心円状に風が起きて、植物が一瞬倒れる。冷たい風が私たち、冒険者を包む。


魔力の元は、気力。子供も知ってる魔法の原則。


強大な魔法使いは感情がそのまま魔法に成る、という。


一か、バツか。


てか、なんで逃げてるのよ。体がでかい分もうそこそこ距離が離れている。


賢者は沈黙を貫き続ける。


ゆっくりと大木のような鉤爪を上げる。感じたことにない程の強大な魔力が渦巻くのを肌に感じる。


はぁ、一息つく。体から力を抜く。もう私にできることはない。


大いなる羽根を開く。全てを消し去る酷く綺麗な黒色。


賢者がその威容を知らしめようと大地に鉤爪を叩きつける。


ダンッ!耳をつんざくような轟音が響いた。


町の周りの木に刻み込まれる、十字の切り傷。


これは・・・森の賢者の縄張りの証。魔者は縄張りの主を理解し立ち去り、魔獣は込められた魔力を恐れ遠ざかる。


"息子よ。こんなにも早く言うことになるとは。我らの一族のいのりでもあり、まじないいだ。こうたらん、旅路を"


私たちにはもう届かない遥か上空。


声音は酷く愛に満ちていた。


私は雛を追いかけた。これからはこの町のみんなが仲間となる。


迎えに行かなくては。歓迎しなければ。新たな仲間を。


野垂れ死んだら、今度こそ私たちの首が散るから!木っ端微塵の塵芥に成りたくないのよ!!


それこそ、死ぬ気で追いかけた。

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