98話 重なりしアドヴァーサリー part4
「あの獣自体が、異常な魔力の塊。だからお前の札も暴発させられた」
「でもそれは多分、アイツの意思じゃないわぁ。強すぎるが故に、周囲の魔道具を勝手に発動してしまうのねぇ」
そう。クロエを操っているのは『霊獣の意思』。甚大な量の魔力が形成する『ベヒーモス』としての形。
肉体そのものを有しているわけではないため、自身を形成する魔力の細かな制御すら出来ないでいる。
最初に二人を斬り裂いたのも、別に手加減をしたり、様子見の攻撃ではない。単純に狙いがそれただけのことだった。
周囲を吹き飛ばす衝撃波も、二人だけをピンポイントで狙うだけの精度を出せないからに過ぎない。
「グゥウウ……」
低い呻り声を上げながら、『霊獣の意思』は様子を伺うように体制を低くする。
やはり先ほどの爆発は意図して起こした現象ではないのか、警戒するように攻めに転じるタイミングを図っている。
「おい、あと札はどのくらい残っている?」
「そこまで多くはないわぁ。でも、コレであれだけ威力を出せるなら、他にもやりようありそうねぇ」
そうか、と呟き札を一枚受け取るアイリス。剣を握り締め『霊獣の意思』へと走り出した。
「私が相手だ!!」
手にした剣が赤く燃え上がる。地面へと当てた剣をそのまま振り上げ、炎を走らせる。
ジグザグに走る炎は『霊獣の意思』へと襲い掛かるが、鋭い爪の一撃で軽く霧散していく。
「はぁああ!!」
だが、上に跳んだアイリスが、その振られた腕へと真紅に赤熱化した剣を振り下ろし切断する。
もちろん魔力で形成された腕。大きなダメージにはならないし、甚大な量を保有する『霊獣の意思』。すぐに切断面から新たな腕を創り出す。
「ふっ……そこまでが流れだ。そして、ここからもな!!」
再生された腕、その中に何か異物が混ざっていた。その異物はたった今再生させたばかりの腕を瞬く間に凍り付かせ、魔力から氷の塊へと変質させる。
それは先ほどリリムスから受け取っていた札。爆発ではなく、凍結の魔法が刻まれたものだった。
「すぐに再生されるなら、物理的に使えなくしてしまえばいい。このまま手を休ませない!」
剣の閃きが『霊獣の意思』へと連続して襲い掛かる。
もちろん、その斬撃の多くは回避されたり受け止められてしまう。
それでも、腕一本を使い物にならなくさせたのはかなり大きかった。『霊獣の意思』の体のあちこちに傷を負わせることに成功する。
「はぁっ!」
リリムスがそれ目掛けて札を投げつける。つけられた傷を再生しようとする『霊獣の意思』へ向けて。
そうなれば、魔力に当てられ暴走した札が刻まれた魔法を暴発させる。先ほど同様に、凍結の魔法を刻んだ札が。
「このまま全て凍り付かせる!」
追撃の凍結魔法がリリムスの杖から放たれ、大きな氷像が一つ完成した。




