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97話 重なりしアドヴァーサリー part3

 「なんだっ!?」

 「なにこれ……!? この量の魔力は!?」

 人間が有するには到底あり得ない量の魔力。それは人智を超越した『霊獣』の魔力。

 ウートガルザの実験により、人間という『檻』に閉じ込められていた獣が解き放たれようとしていた。

 迸る魔力はクロエの肉体を包み込み、四足獣しそくじゅうの形状をとり始める。それが正しい形の在り方とでもいうかのように。

 「どうなっている……? あんな魔法は……」

 「身体強化……って感じじゃなさそうねぇ」

 正体を探ろうとした二人の間に、一陣の風が吹いた。それは髪が軽くなびく程度の、そよ風と呼んで差支えのないものだった。

 


 「がっ……!?」

 「あぁっ!?」

 たったそれだけの風だというのに、アイリスとリリムスの肩に深々と傷が刻まれていた。

 まったく見えなかった。音や気配すら一切感じさせない、まったくの無。

 それ故、攻撃を受けたのだと気が付くのですら一拍置かなければならないほどだった。

 「何をされた……」

 「あれは……人間じゃない」

 リリムスの言葉通り、もはやクロエの意思は完全に奪われていた。内に押し込められていた荒れ狂う『霊獣』の怒りが完全に支配していた。意思も、そしてこの場も。

 


 再び一陣の風が吹く。今度はアイリスが大きくリリムスを突き飛ばし、自身もその反動で大きく横へ跳ぶ。

 その僅か刹那。

 大地がめくれ上がるほどの衝撃が走る。跳んでいなければ二人とも死んでいた、いやそれよりも惨たらしい完全な消滅を迎えていただろう。

 「グゥオオオオオオオオオ!!!!!!!」

 当然、躱してそれでお終いなはずはなかった。四足獣が空へと大きく咆哮を上げる。

 四足獣の体を中心にドーム状の衝撃波が広がった。

 二人はそれぞれ防御魔法を展開するが、衝撃波の威力はまったく減衰させることはできなかった。

 「ぐああああ!?!?!?」 

 「きゃぁあああ!!!」

 両者とも、体を地面に叩きつけられる直前で障壁を挟んでショックを和らげる。逆に言えば、それくらいしか取れる手段がなかった。

 「く……」

 「ワタシたちがここまで……」

 ここまで圧倒的な差を、二人とも感じたことはなかった。それぞれの長であったときはもちろん、『人間界』へと来てからだってこれほどに絶望的な差を感じさせることはなかった。

 しかし今は針の先ほどの逆転の目すら思えない、敗北以外の考えが浮かばないほどに二人は追い詰められていた。

 「どうする……? ここで共に死ぬか?」

 「死ぬなら勝手にどうぞぉ……と言いたいけど、コッチもそれ以外には考えが浮かばないわぁ」

 

 

 『霊獣の意思』はゆっくりと二人の周りを歩く。品定めでもするかのようにグルグルと一定の距離を保ったまま、攻めには転じようとしない。

 だが、ここで焦って動けば、その瞬間に『死』が確定する。

 今の二人は、猛獣の前に差し出されたエサも同義。

 反撃、などというものが許されるはずがなかった。

 瞬間、『霊獣の意思』が飛び掛かる。エサに喰らいつくが如く、その魔力で形成された牙を『魔王リリムス』へと向けて襲い掛かった。

 「くぅ……っ!!」

 牙がリリムスの肉体を噛み砕く寸前、大きな爆発が発生しリリムスは吹き飛ばされ木の幹に叩きつけられる。

 


 「大丈夫か!?」

 すぐにアイリスが駆け寄り彼女を助け起こす。

 「何が起きたの……?」

 「お前が何かを仕掛けたんじゃないのか?」

 そう言われ、爆発した箇所、正確には着用していたロングスカートのポケットをまさぐる。

 「これは……!」

 中から出てきたのは黒焦げになった一枚のカード。それは、先のマルバスとの戦いで余った呪文を刻んであったカード。それが暴発したのだった。

 

 ――しかしなぜ?


 リリムスはあの瞬間、魔法は使おうとしていない。それどころか自身の死を受け入れてさえいたかもしれない。

 だとするのなら、答えは一つ。

 

 「アナタと死ぬのは、延期になりそうねぇ」

 「そのようだな」

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