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96話 重なりしアドヴァーサリー part2

 「いいのか?」

 リリムスの言葉の意味、互いに命を奪い合った仇敵だからこそ理解できるものだった。

 だからこそ、アイリスはその提案を暗に否定もしていた。

 「アナタの技量をアタシはそれなりに高く評価しているつもりよぉ。それに、考えている時間はないわよぉ?」

 その言葉通り、不可視の速度による攻撃が二人を襲う。ギリギリ、本当に紙一重で致命傷を障壁で防ぐが、それなりに小さくないダメージを二人とも受けてしまう。

 このままではまともな反撃も出来ずにやられるのは自明の理だった。

 「……仕方ない、ならば次で決めるぞ」

 「任せるわぁ」

 そう言うと、二人は背中合わせの形を取り、剣と杖を構える。しかし、それでもなおクロエの動きを見切ることは不可能。

 ただ、木々が揺れる音だけが耳へと不気味に届く。

 「なっ!?」

 高速で距離を詰め、欠けたノコギリを構えたクロエがリリムスの視界の下から急に現れる。木々を揺らしていたのは、クロエが持っていた大量の武器。それを勢いよく投げつけることで移動していると勘違いさせたのだった。

 


 「でも……!」

 欠けたノコギリが、リリムスの喉元へと深々と突き刺さる。そのまま腕を横へと振るい、リリムスの首を斬り裂くクロエ。

 だが、その表情は驚愕で凍り付いていた。

 「やはり、動きが鈍いそいつを狙ったな」

 リリムスの背後から斬撃が一閃。クロエの右腕を深々と斬り裂いた。

 これこそが二人の狙い。

 本当にギリギリではあるが、アイリスはクロエの速度に反応を示すことができた。だが、リリムスにはそれが出来ていない。

 ならばクロエが先に狙うのはリリムス一択。

 それを逆手に取り、リリムスは敢えて攻撃を受けたのだった。

 不可視とは言っても、それは超高速による相手の反応速度を超えた動きによるもの。魔法で姿を見えなくしているわけではない。

 それは、攻撃の瞬間は姿を見せなければならないということであった。

 


 だから、リリムスは盾となったのだ。受肉魔法で仮初の体を持ち、そう簡単には死なないリリムスが。

 だが、これは一種の賭けでもあった。クロエの動きが二人の想像を遥かに超えてたら不可能な作戦だった。

 結果としてそれは杞憂に終わったが。

 「これであの高速移動は出来まい」

 苦痛に顔を歪めながらアイリスを睨みつけるクロエ。彼女の言葉通り、クロエにはもうあの動きはできなかった。

 あれだけの速度で動き回るには相当な集中力を要する。それには腕の傷は深すぎたのだ。

 「ふぅ……アナタならそのが逃げるよりも早く斬れると思っていたわぁ」

 「……変わったな、お前」

 もう一度土塊(つちくれ)から肉体を創りだし、自身へと話すリリムスを感心したように見るアイリス。

 以前の彼女ならば、仮初の肉体とはいえ自身を犠牲にする策など絶対に選ばなかったはずである。

 「それほどにユキトを想うか?」

 「下らないお喋りには付き合う気はないわぁ」

 そう言いながら、リリムスはクロエへと杖を構える。その瞳は氷のように冷たく鋭かった。



 「悪いけど、ここで死んでもらうしかなさそうねぇ」

 「おい、いくら利用されているとはいえ彼女は人間だぞ」

 魔法を放とうとするリリムスの肩を掴み制止するアイリス。たとえ命を狙われたとしても、人間を殺すことを選びたくはなかった。

 「それ以外に手はないわぁ。ダーリンを助ける為にも、ここで殺すしかないのよ」

 「それは……」

 もちろん、アイリスにも分かっていた。それでもリリムスほどに非情になれない、動けないように拘束すれば、と考えてしまうのだった。

 だが、今回はその考えは『甘さ』だったと言える。

 「が……ぐぅぁあああああ!!!!!!!」


 耳をつんざくような叫びとともに、クロエの肉体から凄まじい魔力の奔流が迸った。

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