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92話 終り迎えしベトレイヤー part5

 ――ガリガリガリ!!!!


 狙われたのは往人ゆきとだった。炎の魔力を纏わせた、烈火のチェーンソーと化した剣とノコギリ状の剣が激しくぶつかり合う。

 「何をするんだっ! クロエっ!!」

 呼ばれたその名。それは、『魔法調査機関』に所属する少女、クロエだった。

 赤紫色の髪を振り乱し、煤けた茶色の外套を羽織り、その下はボディラインがピッチリとでるインナースーツを身に纏った、十二、三歳ほどの少女。

 往人の言葉に何ら反応を見せず、チェーンソーとのぶつかり合いで溶けかかったノコギリを放り捨て、腰からバール状の武器を引き抜き再度、往人へと襲い掛かる。

 「やめろっ! お前と戦うなんてっ!」

 


 「貴様……あのに何をした!」

 思いもよらぬ闖入者に、攻め手が止まってしまったアイリスは樹上で薄く笑うウートガルザへと再び斬りかかった。

 もちろん、リリムスも杖を振りかざしアイリスのサポートに走る。

 「あの男みたいに、なんかの実験に使ったのかしらぁ!」

 雷鳴を降らせウートガルザの動きを制限するリリムス。クロエのことは相変わらず気に入りはしないが、それでもあんな形で敵対させられるのは、到底承服できるものではない。

 僅かな時間、動きを留められたウートガルザにアイリスの剣戟が閃く。

 聖なる光がウートガルザの戦斧とぶつかり合い、激しい光が辺りを照らしていく。

 「そうです。彼女も被検体の一人です。それも、あの失敗作とは違う、未完成ではありますが成功例と言ってもいいでしょう」

 戦斧を振るい、烈風を巻き起こし二人をまとめて吹き飛ばす。そのまま、起こした烈風は竜巻状となって、大地を裂きながら二人へと襲い掛かっていく。

 「くそっ!! これではユキトを……」

 「こんのぉおお!!!」

 渾身の叫びとともに、リリムスが杖の先から竜巻を発生させる。ウートガルザが起こす竜巻とは比べ物にならないほど、小さな竜巻を。

 「クフフ、今の貴女ではその程度が関の山。このまま飲み込まれるといい!!」

 「いいえ、これでいいのよぉ」


 起こした竜巻を、リリムスはなんと自分たちの方へと向けて放ったのだ。小さいとはいえ、『魔王』の放つ烈風の魔法。かなりのダメージと共に、二人は大きく空へと打ち上げられてしまう。

 「チッ……考えましたね」

 だが、それこそがリリムスの狙い。ウートガルザの竜巻を食らえば二人とも致命傷は避けられない。ならば、ダメージは負っても戦闘が継続できるレベルの自身の攻撃を受けた方がマシと考えたのだ。

 「痛っ……もう少し加減できなかったのか?」

 「仕方ないわぁ、今のワタシじゃあ咄嗟の威力制御は難しいのよぉ」

 空を舞いながら、言い合う二人。難しいと言いながらも、それが出来るくらいに調整してみせるのは流石、『魔界第一位』と言ったところか。



 「ですが……!!」

 空には逃げ場はない。踏みしめる足場も、盾となる岩場も何もないのだ。

 振り下ろされた戦斧をそのまま受ける以外には、もはや手はない

 「ここにいるのが一人なら、このまま何もできないだろうな」

 ないのなら見つければいい。

 二人は互いの足をそれぞれ機転にして跳んだ。アイリスは上に、リリムスは下に。

 「なっ!? ぐあっ!!」

 空を斬った戦斧の柄に足をつけ、そのままウートガルザの顔面を勢いよく蹴りつけるアイリス。

 バランスを欠いたウートガルザは地面に叩きつけられる。アイリスが土で汚れるのを防ぐ絨毯となって。

 「ユキトっ!!」

 


 「ダーリンにこれ以上手出しはさせないわぁ!」

 先に着地していたリリムスは、暴走するクロエへと杖から雷球を放ち往人と引き離す。

 距離が空いたその隙に、アイリスが剣を振るいながらクロエへと駆ける。当然、クロエは二人からさらに距離を取るために後方へと跳ぶ。

 「二人とも!」

 「大丈夫か、ユキト?」

 「このまま一気に畳みかけるわぁ!」

 アイリスとリリムスが先んじてクロエへと駆けだす。しかし、往人がその後には続かなかった。

 「そこです!!」


 土煙の中から猛烈な速度で飛び出したウートガルザが、往人ごと強引に山の斜面を駆け降りていった。

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