90話 終り迎えしベトレイヤー part3
「さて、そろそろあの人たちも来る頃ですかね」
社の影で身を潜めていたウートガルザがゆっくりと立ち上がる。
『鏡合わせの魔法』で魔力を大幅に消耗し、疑似的ではあるものの『魔王』と、そのサポートを受けた異界人と戦って疲弊しないわけはなかった。
「もう少し時間が稼げると良かったんですが……」
『霊衣憑依』をして『女神』の力が使えるとは言っても、正直あそこまで戦えるとは思っていなかった。
戦いを知らない異界人、そう聞いていたし実際、他の異界人を見ても『戦い』というものを正しく認識できている者はほぼいなかった。
だというのに、あの異界人は違った。
「確か……ユキトとか呼ばれていましたね」
あの少年は確かに『戦い』を知らないのだろう。しかし、他の異界人にはない『違和感』をウートガルザは覚えた。
遥かに実力の勝る自分との差を埋める、何らかの力。『霊衣憑依』でも、『魔導書』でもない、あの少年自体に感じる大きな『違和感』。
「あの二人が選ぶだけはある、ということですか……?」
『人間界』に来る前に、ロキも『女神』や『魔王』ではなく異界人について強く興味を持っていた。それはこういうことだったのだろうか。
「だからといって、僕のやることは変わりはしませんが……」
わざわざロキの命に従うフリをしてまで『人間界』に、この島に来たのには当然理由があった。
妖を滅したという『聖剣』が眠る島。
ここへ来ることがウートガルザの長年の願望だった。だが、古き盟約とやらで『人間界』に干渉することは禁じられていた。
「クーデターが起こった今が最大のチャンスですからね」
アイリスがロキによって、その立場を追われ盟約が半ば形骸化したこの時しかなかった。
だが、この島に『女神』たちがいるのは完全に計算違いだった。
いずれは来るだろうとも思ってはいたが、ここまで早いとは考えていなかった。
そのせいで失敗作が生まれてしまったし、時間稼ぎの『鏡合わせの魔法』まで使うハメになってもしまった。
「でも、それもそろそろ終わりです。もうすぐ僕は……」
うっとりとした表情を浮かべながら、ウートガルザは空っぽになったはずの社の中を覗き込む。
空虚は暗闇だけが在るそこを、大事そうに扉を閉める。
「クフフ、レーヴァテインも近くまで来ている。それも……」
あの時の熱さを思い出したように、手のひらを見つめるウートガルザ。
『天族』の為の剣だというのにウートガルザも、そして『女神』すらも扱うことが出来なかった異端の『聖剣』。
「何となく予想はつきますがね」
あの時、異界人の少年だけは力を発揮できないまでも振るうことは出来ていた。
『天族』である自分と『女神』は触れることすらできないのに、『魔王』と『霊衣憑依』していた少年が触れた理由。
恐らくは、『女神』たちはまだ気が付いていないだろう。
気づいているのなら、先の戦いで抜いていたはずであるのだから。
「勝負は急がなければならなそうですね……」
もうすぐそこまで迫っている三人との戦いに、ウートガルザは少しでも魔力を回復するために瞳を閉じた。




