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85話 心染めしビースト part9

 「喰らえっ!!」

 輝く斬撃が宙を舞い、ウートガルザへと襲い掛かる。

 不規則な軌道を描く斬撃は、戦斧に空を斬らせるのみですり抜けていく。

 「くっ! 舐めないでもらいましょうか!!」

 斬撃がその身を斬り裂く瞬間、ウートガルザの体を突風が包み込む。とはいえ、その程度で弾かれるような攻撃ではない。渦を巻く風の壁をやすやすと細切れにしながら、ウートガルザも斬り裂くはずであるが――



 「いないっ!?」

 「まだ正直すぎますねっ!!」

 鈍く輝く一撃が天より降り注ぐ。すんでのところで躱した戦斧がその勢いのまま地を砕き割った。

 「ぐっ!?」

 巻き上げられた細かい瓦礫が、まるで散弾銃のように往人の全身を叩きつける。『霊衣憑依ポゼッション』していなかったら、今頃ボロ雑巾のようになってしまっていただろう。

 「クフフ、甘いんですよ。女神の力を使えるからといい気になっているでしょう?」

 痛みに悶える暇はない。

 巨大な戦斧を振りかざしたウートガルザはいちいち休みを与えてくれるわけがない。追撃の斬撃を躱しながら、何とか距離を取り剣を構えなおす。

 「コッチを忘れないで欲しいわぁ!!」

 リリムスが雷の矢をいくつも放つ。雷速の一撃は、ウートガルザでも躱すのは容易ではない。

 「はぁ……なら、貴女を先に殺してもいいですよ?」

 しかし、どうしても威力不足は補いきれない。回転も加え、貫通力を上昇させた雷でもウートガルザへの決定打にはなり得なかった。

 むしろ、決定打足り得るものとするための正確性が仇になったと言える。

 「何処を狙うか分かっているなら、対処も簡単なんですよ!」

 急所である目や、機動力を削ぐために足。リリムスの今の力で潰せるのはその辺りが限界である。

 ならば、そこを重点的に守っておけばいい。他を狙う矢はブラフに過ぎない、単なるこけおどしなのだから。

 「くっ……流石に速い!?」

 ウートガルザも『天族』である以上、肉体を鍛え上げることに余念はない。その鍛え上げられた筋肉から生み出される速度は、今のリリムスでは避けることなど不可能に近い。眼前で放たれた銃弾を躱すことができないように。

 

 ――ギャリリリリリリ!!!


 しかし、ウートガルザの戦斧がリリムスの肉体を砕くことはなかった。

 鈍い金属音と共に、往人が戦斧を受け止めた。燃え盛る烈火の魔力を剣に纏わせ、戦斧と切り結ぶ。

 細かく打ち合うような音が響くのは、炎の魔力を高速振動させながら纏わせているからだった。その威容は、まるで燃え上がるチェーンソーのようだった。

 「ぬぅ……」

 このまま切り結んでいてはこちらが不利、とウートガルザが後方へと跳び互いに睨み合う。

 「大丈夫か? リリムス」

 「ええ、ありがとう、ダーリン」

 


 「流石は異界人……と言ったところですね。その機転、我々ではなかなか思いつきませんよ」

 「よく回る舌だな。でも、本心を言っていない……そうだろう?」

 小さく笑い、ウートガルザが駆ける。大きく振りかぶられた戦斧が、袈裟懸けに降ろされる。

 「そんな大振り! ……うわっ!?」

 往人が躱そうと身構えたそのとき、戦斧の刃が強烈に光った。

 暗闇でいきなりカメラのフラッシュを最強レベルで焚かれたように、往人の目は眩み意識が硬直してしまう。だが、躱そうと動いた体はすぐには止まれない。

 結果、意識と肉体の乖離でその場に無様に転がってしまう。

 「だから……正直過ぎるんですよっ!!」

 

 利かない視界の中、そう叫ぶ声だけが往人の耳に届いていた。

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