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84話 心染めしビースト part8

 「ダーリンッ……って、何やっているのよアナタたち!?」

 強い魔力の波動を感じたリリムスが、往人ゆきとのテントへとやって来る。

 当然、今までアイリスと話していたのだから、二人でいるところを目撃されて彼女が憤慨した声をあげる。

 「この緊急事態に……ハレンチだわっ!」

 「貴様と一緒にするな! 少し話をしていただけだ。それよりも急ぐぞ」

 頬を膨らますリリムスを適当にあしらい、アイリスは反応のあった場所へと急ぐ。

 「むぅ、話はまだ終わってないわよぉ! ……しょうがない、ダーリン本当に何もなかったぁ?」

 「何もないよ……俺たちも行こう。ウートガルザがいるかもしれない」

 まだ納得していないリリムスを促し、往人たちもアイリスの後を追う。

 寝静まった町を駆け抜け、先ほどトラップを仕掛けた場所へとたどり着く。夕暮れ時の賑わいが嘘のように、静寂が支配する夜の露店街はまた違った趣もある。



 「ウートガルザ……」

 一足早くたどり着いていたアイリスが、暗い路地に立つ男と対峙している。

 ウートガルザ。月明かりに照らされ、怪しく輝く戦斧を肩に担ぎ好戦的な笑みを浮かべている。

 「クフフ、随分と網を張りましたね。それほど僕を求めていたと?」

 「自惚れの強い奴だ……と言いたいがそうだな。お前を殺すことを求めていると言えばそうなるな」

 冷たい瞳をしたアイリスが手にした剣を突きつけながら、冷淡な声で言う。

 「貴様こそ、わざわざ誘い出すとは余裕があるな?」

 「仕方がないですよ。貴女一人ならまだしも、魔王に異界人まで一緒ではやはり動きにくい。だから……」

 

 ――ガギィイイイインン!!!!


 重く鈍い金属音が、静かだった露店街を戦場へと変えた。

 「ここで貴女たちを葬ることにさせてもらいます!」

 戦斧を振り下ろし。アイリスの剣とぶつけあうウートガルザ。その体躯からの膂力りょりょくは戦斧に恐るべき破壊力を与える。

 「くっ……」

 「フフ、今の貴女ではギリギリで受け止めるのが限界。ですが、僕はまだ余力があるんですよ!!」

 戦斧がアイリスの額に食い込む寸前、青く煌めく一閃がウートガルザの胴へと走る。

 「ふんっ! その程度の動きっ!!」

 往人の斬撃を後方へと跳び、躱すと戦斧を横薙ぎに振るって斬撃を飛ばす。

 バチバチと雷光を纏う斬撃は、変則的な動きを伴って三人へと襲い掛かる。

 「くっ! このっ……!!」

 「このぐらいならっ!!」

 「当たると思ってぇ?」

 三者三様に斬撃を防ぐ。そのまま一番に反撃に転じたのは、以外にも往人だった。



 「このままっ……振り抜く!!」

 「人間風情がっ……なっ!?」

 戦斧を盾代わりに構えたウートガルザだったが、その判断を翻し小さく展開した防御魔法を使いながら上へと跳んだ。

 展開された障壁はいともたやすく斬り裂かれ、今までウートガルザがいた場所に青い斬撃が閃く。

 「ほう……珍しい剣を使いますね」

 「俺と話す暇があるか?」

 後方から迫る火球をノールックで戦斧を使い防ぐウートガルザ。さらに横から振るわれる斬撃にも火球の爆発を利用し宙返りをして躱す。

 「遅いですね。僕にはまだ届きません」

 「どうかしらぁ?」

 そう言って、リリムスがウートガルザの周囲にいくつもの火球を出現させる。躱すことのできないように全包囲を包み込むように。

 「これは……」

 「これならっ!!」

 一斉に襲い掛かる火球が大爆発を起こす。月明かりを掻き消し、まるで昼間に戻ったような明るさが一瞬、露店街を照らす。

 土塊つちくれの肉体で、魔法の威力が低下しているので数で誤魔化すしかないリリムスの取った策だった。

 


 「本当の貴女ならば、僕もここで死んでいたでしょうね」

 だが、やはり誤魔化しは誤魔化し。

 背後から振られた戦斧がリリムスへと襲い掛かる。所々焼け焦げてはいるが、大きなダメージには至っていないウートガルザによる一撃がリリムスの体を粉々に砕く――

 「やらせないっ!!」

 その一瞬、輝く白翼を展開した往人が手にした剣で戦斧の一撃を弾き返す。

 火球による爆発は目くらまし。

 本命は『霊衣憑依ポゼッション』にあった。

 「チッ……厄介ですね」

 「さあ、いくぞ!」


 『女神』の力と一体になった往人が、白翼はためかせて天を舞った。

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