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83話 心染めしビースト part7

 「え?」

 言われていることが理解できなかった。

 何者なのか? と問われても、すぐに自分はこうですと答えられる人間はあまり多くはないだろう。

 それが、人とは違う存在から問われたとならば尚更だった。

 「クロエから聞かれて、私も考えたんだ」

 困惑している往人ゆきとをよそに、アイリスは話し始める。

 「君は戦いのない世界から来たと、そう言ったことがあるな?」

 「……ああ、確かそんなことを言ったな」

 往人のいた世界。そこには戦いはなかった。いや、正確にはあったのだが、往人の周囲には存在しなかった。ニュースで流れる、何処の国で紛争がありました、何処と何処の国で緊張が高まっています、といったことは聞いていたが、それでも戦いはない、と言えるだけの平和が往人の済む世界だった。

 往人にとって戦いとは、マンガやアニメ、ゲームの中での出来事としか捉えていなかった。

 ましてや、『ニユギア』に来て以降の戦いなど、その最たるものと言っても過言ではない。



 「それがどうかしたのか?」

 「それにしては、君は戦え過ぎているんだ」

 それは当然だろうと、往人は思う。アイリスやリリムスと『霊衣憑依ポゼッション』をした際に、頭へと流れ込んでくる戦闘の知識。

 それは解除した後にも往人の脳内に残ったままである。その知識に従って行動すれば、ある程度は戦えるのは当たり前ではないのだろうか。

 「霊衣憑依ポゼッションで得た知識を使っているのを差し引いても、君は強すぎる」

 往人の考えを見透かしたように、アイリスは言う。

 「私や、あの魔王と一つになって得た知識は、いわば毒に近い。それを上手く薬とするには一朝一夕ではいかない。まず体がついていかないはずなんだ」

 「……二人の戦いとは程遠いけど?」

 「動きを理解できているだけでも上澄みも上澄みだよ」

 「だけど、そう言われても俺には分からない。ただやれることをやっているだけだ」

 そう、戦え過ぎているとか、上澄みだとか言われても往人にはその理由は答えられなかった。

 ただ目の前で起きていることに全力で対処しているだけで精一杯、とても他の事を考える余裕など持てるはずもなかった。

 「だろうな……」

 そう答えるのが分かっていたかのように、アイリスは言った。

 「もし、何らか思惑があってこの世界にいるとしたら、もっと巧妙に立ち回るだろう。しかし、君からはそう言った胡散臭さはない。ひたすらに真っ直ぐな熱意がある」

 「じゃあ、俺は他の誰かの思惑でここにいると?」

 他の誰か、と言いはしたが往人にはそれが誰なのか、思い当たる節はあった。

 「恐らくは君をこの世界に連れ込んだ、黒ワンピースの少女……だろうな」

 アイリスも同様のことを考えていたのか、ナルのことを口にする。



 「その少女は、君に何をさせたいんだろうな?」

 「さぁ? 俺に強くなることを期待しているみたいな口ぶりだったけど……」

 そう言って、彼女からの贈り物である剣へと触れる。

 力の差、などというような言葉で説明できないほどの圧倒的な力量を見せつけたナル。

 そんな彼女が何をさせたいのか、答えの出ない疑問が往人たちの心を埋めようとした時だった。

 「むっ!? これは……!」

 アイリスのズボンのポケットから光が漏れ、激しく明滅を始める。


 それは、先ほど仕掛けたトラップに何かが反応した合図だった。

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