82話 心染めしビースト part6
結局、その日はなんの収穫もないまま一日が過ぎ去ろうとしていた。
浜の目立たないところに仮設されたテントの中で、往人はぼんやりと何を考えるでもなく、心地よい微睡みに身を委ねようとしていた。
「ふあぁ……いろんな事がありすぎた」
イベントばかりで報酬のない一日だった、というのが往人の正直な感想だった。
目が覚めれば、常夏の島。さらにそこにいる人々は眠っている、それを調査する少女と戦う、『聖剣』が収められている社で謎の中年男に襲われる、『天族』の男と戦う、『魔導書』のデメリットに悩む、と思い返すたびに頭が痛くなるようなイベントしかなかった。
そのうえ、手に入ったのはまともに使うことのできない『聖剣』だけ。
往人でなくとも溜息の一つもつきたくなるというものだった。
「ユキト、ちょっといいか?」
そんなことを思っていると、テントの外から声がした。
何かを抱えたアイリスが佇んでいるのが、影で分かった。
「うい、何用で?」
外へと顔を出すと、目に飛び込んできたのは食べ物だった。
「えぇ……」
「すまんな、もしかして寝ようとしていたか?」
「いや、別にいいけど……なんだそれ?」
テントの脇に大量の食べ物を置き、その横へと座るアイリス。暗に往人にも座れと言っているのか、優しく微笑んでいる。
「少し君と話そうと思ってな。これはそのお供だ」
何時間話すつもりなのだろうか、よく抱えられたという量の山からおもむろに掴むと、豪快に頬張るアイリス。往人にも差し出しながら言う。
「悪いな。こんな簡素な寝床になってしまって」
「俺は食べないよ……まぁ、いいよ。リゾート地なんだし、身元の確認はしっかりされるだろう」
往人たちが、こんな目立たないところで寝泊りをしているのは、今日の宿が確保できなかったからだった。
この『コウヤミ』は超高級リゾート地。当然、宿だって非常に豪奢な造りの建物ばかり。セキュリティだって万全を期している。
正規の手段で来訪しているわけではない三人に、提供される寝床など存在しなかったのだ。
だからといって適当に野宿という訳にもいかない。宿無しでは怪しまれてしまう。だから、海岸の目立たないところにいるよりほかはなかった。
相当に立腹していたリリムスの姿がまだ瞼に焼きついている。
「別に、それを言いに来たんじゃないんだろう?」
「まぁな……」
アイリスにしては、幾分と歯切れの悪い返事だった。出会って日は浅いが、彼女は言うべきことはキッパリと言う、明朗な人物だと往人は思っている。
リリムスに言わせれば『脳筋』らしいが、そう言った真っ直ぐさも彼女の魅力だと感じる。
だが、今の彼女は何かを迷っているようにも見えるし、往人に遠慮しているようにも見えた。
「なんだよ、別に気にしないで言ってくれよ」
「そうか? なら……」
アイリスはそこで言葉を切り、息を一つ吐く。
「ユキト、君は一体何者なんだ?」




