80話 心染めしビースト part4
「なによぉ……気持ちワルいわねぇ?」
二人で戻ったリリムスと往人を、アイリスは妙に優しい、というより嬉しそうな表情で出迎えた。
「ああ、いやなんでもないんだ。ユキト、申し訳なかったな。ちょっと無神経な発言だった」
「いや、こっちこそ悪い。勝手をしてしまって……」
互いに頭を下げ謝る。往人は『魔導書』の事をアイリスに伝えるべきか迷ったが、結局は言わないことにした。
言えば、これ以上『魔導書』を持つことを反対されることは目に見えていたし、往人にとってもそれは困ってしまう。
「ごめん……でも俺、強くなるから」
黙っている事への罪悪感を、そう伝えて誤魔化す往人。
当然、何のことか分かるはずのないアイリスはやや困惑しながらも、優しく凛々しい笑顔を向ける。
「ん? ああ、期待しているぞ。一緒に頑張ろう」
屈託のない笑顔を向けられ、チクリと胸の奥が痛む。心配をかけないくらいに強くなろうと、改めて決意する往人だった。
「さて、戻って来たのなら早速始めてもらおうか。魔法の発生点を探れるんだろう? お前」
クロエの言葉に、リリムスが苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべる。
「アナタに指図される覚えはないわぁ。それになぁに? そこの男から、何の情報も引き出せなかったのぉ?」
「そうじゃない。そこの男は初めから何も知らされていない。ただ、魔力を外付けされて壊されていただけだったんだ」
それを聞き、フン、とそっぽを向きながらも魔法の発生点へと歩みを進めるリリムス。
クロエの指示で動くのは非常に癪ではあるが、それをしなければ島から出ることすら叶わないのだ。
(まったく……ワタシも甘いわねぇ)
人間と『霊衣憑依』した影響だろうか、と考える。
『魔界』にいたころならば、気に入らない存在は全て、自身が持つ圧倒的な才能でねじ伏せてきた。だが、王の座を追われ人と共に在る今はそれを良しとしない自分もいる。
そのことに戸惑いもするが、不思議とイヤな気分でもなかった。
(いけない……集中、集中)
強く魔力の残滓を感じる場所。一見何の変哲もない民家の影だが、躊躇いなくリリムスは地面へと魔法陣を描いていく。
まったくのフリーハンドだというのに、一切のブレもない綺麗な円と判子を押しているかのような美麗な文字が描きこまれていく。
「すげぇ……」
往人ではたとえコンパスを用いたとしても、ここまで綺麗な円を描くことはできない。文字なんて言わずもがなである。
「ふんふん、なるほど……」
描かれた魔法陣の中心に立ち、淡い光に包まれるリリムス。その表情からはあまりいい結果が得られた、とは思えなかった。
「それで? どうだった」
「眠りの魔法はダミーねぇ。大元の魔法を隠すために敢えて大規模にしてあるみたい」
「どういうことだ?」
この島のにいる者全てを眠らせることが、『なにか』から目を背けるために引き起こされたもの。だが、それが何なのかは分からなかった。
「一応、眠りの魔法は解除できたわぁ。でも、ウートガルザを見つけないとこの島から出ることはできなそうねぇ」
「大元の魔法とやらが何かは分からないのか?」
「チッ……分かるんならとっくにやってるわぁ。規模に対して魔法の構築が雑だからそう思っただけよぉ。ホントに大元があるかは不明だわぁ」
とはいえ、おおよそそのその予想は当たっているだろう。何しろウートガルザは、わざわざ人間を壊してまで魔力の外付けをしていたのだ。
これである程度の手掛かりは得られた。
「ウートガルザがやろうとしていることを見つけなくちゃな」




