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76話 偽り暴きしセイクリッド part6

 宙でいきなり方向転換をするなど、普通の人間に出来る芸当ではない。技術がどうこうではないのだ。物理的に不可能な事象なのである。

 「こいつ……魔法を!?」

 「ガァアアア!!」

 男の咆哮が響く。人間とは思えない速度で壁を蹴り、攪乱かくらんしてくる。

 「はあっ!!」

 男の腹へとアイリスの蹴りが叩き込まれる。それだけで男の体は吹き飛び、骨の一本や二本簡単に折れてしまうはずなのだが。

 ニィ、と不気味に笑ってアイリスの足首を掴み取る男。そのままプロレスのジャイアントスイングの要領でアイリスの体を振り回す。

 「グゥウウウ!!!」

 「うわっ!? ……このっ!」

 投げ飛ばされる直前に、アイリスが何かを投擲する。それは魔力で形成した小さな刃物だった。

 「ガァアッ!?」

 太ももを貫いた刃物は中年男の機動力を削ぐ。その隙を狙い、リリムスが杖の先から小さな雷撃を放つ。土塊つちくれで創られた肉体ではあまり強い魔法は使うことはできない。

 だが、人間の体は微細な電気信号で動く。そこに必要以上の電気を外側から流せば、

 「フフン、動きは縛ったわぁ」

 電撃により、脳からの命令を処理できなくなった男をクロエが組み伏せる。外套から取り出した浅黒い縄であっという間に縛り上げて見せる。

 


 「動けば動いただけ縛りがきつくなる。大人しくするんだな」

 しばし暴れていた中年男だったが、抵抗できないと悟ったのか急におとなしくなり俯いて黙り込む。

 生きている事だけを確認して、アイリスが言った。

 「不味いな……もう時間がないぞ」

 示された時間、それはタイムリミットが来ていることを表していた。

 「他の調査機関の者は来ない」

 クロエが何の気なしに言った。だがそれはとても重要なことだった。

 「なんだと!?」

 「強力な干渉遮断障壁が展開されている。外からは何人たりともこの島に干渉できない」

 「この島全体をぉ? どうやってそんな大規模な魔力を……」

 クロエの言葉にリリムスが考え込む。確かに、この島全体に他国の調査機関員たちが干渉できないように細工をするには相当な魔力が必要になる。

 しかし、『天族』も『魔族』も『人間界』では著しく弱体化する。人間、それも『異界人』を受肉術式で使ったとしてもそれは避けられない。

 通常であればそれだけの大規模な魔法は効力が弱まるはずだった。

 「まさか、三冊目の魔導書か?」

 「あり得ないわねぇ」

 往人の言葉をリリムスがバッサリと切る。

 「魔導書は三冊しか存在しないわぁ。今こっちに二冊、残り一冊をここで使うはずはないわぁ」

 「それに、干渉遮断障壁を張ったのはウートガルザだろう。魔界の至宝を使えるはずもないしな」

 


 それが分かっているからこそ頭を悩ませるのだった。

 ウートガルザになぜそこまでの芸当ができたのか。それだけのことが出来るなら、あそこで三人を屠ることすら容易だったはずである。

 「それに、奴はレーヴァテインだけが目的でなさそうだった……」

 三人が『レーヴァテイン』を手にしていると知った彼は、興味を失っていたように見えた。

 あわよくば手に入れて、主目的は別にある雰囲気を感じたのだ。

 「その為に邪魔をされたくなかったのかしらぁ?」

 「その目的も分かれば突破口もあるんだが……」

 考え込む三人に、クロエが言った。

 「だったらコイツを使えばいい」

 外套から小さな針のような物を取り出し、俯く中年男に向き直る。


 「コイツから何か情報を引き出せるかもしれない」

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