73話 偽り暴きしセイクリッド part4
「ぐぁあああ!!!」
全身を輝く針に貫かれるウートガルザ。針のむしろとも形容すべき体を晒す。
「なんだ……どうなっている?」
そう言ったのは、刃を放ったアイリス自身だった。
飛刃は砕かれた時点でその力を失うはずだった。だというのに、針となってウートガルザを襲い始めたのだ。
そんなことが出来るのは、
「悪いな、アイリス。オレが割り込ませてもらったよ」
樹上からするのは往人の声。その手には漆黒の表紙の旧びた書物が開かれていた。
「魔導書か……」
『魔導書』。
現代の魔法を遥かに凌駕する、凄まじい性能の『秘法』を記録している叡智の魔本。所有する者に個人で国と戦争すら可能にするほどの力を与える古代の遺物。
リリムスと『霊衣憑依』することで、往人が使えるようになる『魔王の力』だった。
「砕かれた時点で飛刃は魔法から魔力へと落ちる。それを新たに秘法に変えるくらいなら簡単なんだよ」
『魔導書』がぼんやりと光を放ち、頁がパラパラと勝手にめくられていく。
「そして」
往人の手が開かれた頁の上を滑る。記された叡智の輝きが一層増していく。
――ズガガガガ!!!!!
地を突き破って金属質の光沢を持った杭のようなものがウートガルザ目掛けて飛び出てくる。
「おのれっ!! こんな程度でっ……!!」
戦斧を横薙ぎに振るい、杭を破壊していくウートガルザ。彼の持つ膂力にかかれば極太の金属であろうと、飴細工のごとくである。
「だろうな。でも、だからこそだっ!!」
ビュルン!! と、ひしゃげ砕かれた金属杭は、まるで意思を持つかのようにうねり、一つとなってウートガルザの体を縛り上げた。
「一気に決めるっ!!」
往人が魔導書に魔力を注ぎ込む。頁がめくられ、強い光を放つ。それに呼応するように、ウートガルザを縛る金属質の縄が赤く赤熱化していく。
「ぐぅああああ!!!!」
ジュウジュウと、肉が灼けていく嫌な匂いが周囲に立ち込めた。屈強な肉体を持ってしても、その苦痛は筆舌に尽くし難い。
「くっ……こんなところでぇええええ!!!!!」
「っ!?」
だが、灼熱を帯びる金属であってもウートガルザを止めるには至らなかった。全身の筋肉を膨張させ、力任せに金属縄を引きちぎる。
「この……っ!!」
「やらせはしないっ!!」
熱く灼ける金属縄を掴み取り、ウートガルザはそのまま氷の魔法で一気に凍てつかせる。急激な温度変化に耐えられず、脆くなった金属縄は粉々に砕け散った。
「ふんっ!!」
そのまま戦斧を回転させ、氷の欠片を吹き飛ばす。たとえ割り込みをかけられても自身へと牙を剥くことのないように。
「クフフ、身体能力ならば僕の方が上、のようですね」
「チッ……」
防御魔法を展開しながら往人は歯噛みする。
『魔王』の力を借りているとはいえ、そのリソースのほとんどは『秘法』を使うのに割いてしまっている。とても『天界』の精鋭と渡り合うだけの身体能力は得られない。
「だからっ……!!」
アイリスの剣の一閃がウートガルザを狙う。
そう、『天族』の身体能力と渡り合うのは『女神アイリス』の領分。『魔王』の力を借りる往人はそれに合わせた戦いをすればいいのだ。
「ここに私がいるっ!!」
距離を取ったウートガルザの頬に赤い一筋が走る。みるみる玉となった筋は、鮮血として彼の手を汚す。
「なぜだ……? 僕の動きを捉えるなんて……っ、まさか!?」
「オレがただ単に秘法を撃ちまくるだけと思ったか?」
金属とは、古来より毒としての側面を持つ物であった。そしてそれを利用した暗殺なども行われてきた。すぐに死ぬのではない、ジワジワと、真綿で首を締めるように内側を破壊する毒として。
「僕の身体能力の阻害を……」
「まぁ、マルバスほどに精通してはいないから効果は弱いがな」
それであっても、捉えることが出来ればアイリスには十分すぎるほどだった。
「ウートガルザ、覚悟!」
神速の一閃が、一陣の風となってウートガルザの体をすり抜けていった。




