72話 偽り暴きしセイクリッド part3
「クハハ! せっかくですから、貴女を倒してその少年を連れていかせてもらうとしましょう!」
巨大な戦斧を出現させて豪快に振り下ろすウートガルザ。その体躯に見合った凄まじい速度がアイリスを襲う。
大地が唸り、周囲の木々が千切れんばかりに揺れる。猛烈な破壊の一撃に、往人はその余波だけで吹き飛ばされそうになる。
「アイリスーッ!!」
土煙で視界を奪われた中、往人は必死の叫びをあげる。いくら『天界の女神』といえども、あんな攻撃、ミンチになってしまう。
「……相変わらず顔に見合わない奴だな」
頭上高く美しい声が聞こえる。戦斧の一撃を躱したアイリスが木の上から言った。
いわゆるイケメンと呼ばれる顔つきのウートガルザは戦斧を豪快に担ぎ上げなら、不敵に微笑む。
「よく言われるんですよね、それ。でも、意外性があって僕自身はいいと思いますがね」
振りかぶったウートガルザが戦斧を横薙ぐ。木々は千切れ飛び、次々と地に伏していく。まるで巨大なドミノ倒しでも見ているかのようだった。
「うーん……やはり人間界では僕らの性能はフルでは機能しませんね」
「そうだな。貴様が得意としていた精密性がまるで見えない」
一瞬で懐へと飛び込んだアイリスの剣がウートガルザの胴を両断せんと振るわれる。
斧の腹で斬撃を受け止め、返す刀で顔目掛けて蹴り上げるウートガルザ。宙を蹴った足へと剣の一閃が光る。
それを戦斧の横薙ぎで弾くと、そのまま一瞬で振り下ろしへと転じる。まさに攻防一体の戦いに往人は圧倒されていた。
「なんて戦いだ……」
あまりの展開に立ち尽くしていた往人の肩に手が置かれた。顔を向けると、自信ありげに笑うリリムスが立っている。
「このワタシがいることをお忘れかしらぁ?」
薄く笑って、魔の頂点に座する王の手を取る往人。それは魂を重ね合わせる契約の儀。魔導の叡智が全身を満たす。
『霊衣憑依』。
『魔王リリムス』と一つになった往人は黒地に赤のラインが走った杖を出現させ、空を駆ける。
土煙を上げながらぶつかり合うアイリスとウートガルザ、両者が距離を取ったほんの一瞬に、激しい雷光が杖から走る。
「むっ!?」
防御魔法で雷の矢を防ぎ、戦斧を逆袈裟に振り上げるウートガルザ。刃の軌跡が飛刃と変わり宙に立つ往人へと襲いかかる。
「当たるかっ!」
それを躱し、続けて雷の矢を連射する。大地にいくつもの青白い光が突き刺さる。
「畳みかけるっ!!」
急降下し、ウートガルザの背後を取った往人。その大きな背へ向けて火球を打ち放つ。絶対に躱すことのできない距離。
火球を受けたウートガルザの体は大きく反り、地面を転がった。
「……速さは上々。しかし霊衣憑依して、この威力……ですか?」
ゆっくりと起き上がったウートガルザはなんでもないような顔をして、ロングコートの白を汚す土を払い落す。
あれだけの雷撃と火球を受けても、大したダメージにはなっていないようだった。
「なんだと……?」
「ロキもなぜこんな少年に興味を抱くのか、理解できかねますね」
「はあっ!!」
往人へと伸ばされたウートガルザの腕に、剣が振り下ろされる。土煙を払い飛ばしながらアイリスが駆ける。
「ユキトに手は出させない!」
「受肉も霊衣憑依もしていない貴女では僕の動きについていくのがギリギリでしょうに……」
まるで哀れむかのように笑うウートガルザにアイリスが吠える。
「たとえそうであっても、ここで退く理由にはならんな!」
斬撃が光となって走る。大気を斬り裂きながら、いくつもの刃がウートガルザへと襲い掛かる。
戦斧を振り、飛刃を砕くウートガルザ。だが、その顔から僅かに余裕が消えた。
「うっ!? これは……っ!」
砕かれた刃が、さらに細かい針となってウートガルザに牙を剥いたのだった。




