71話 偽り暴きしセイクリッド part2
「操るぅ?」
素っ頓狂な声を出したのはリリムス。あの、本能のままに動いていた男が誰かの指示を聞く、もとい理解出来るとは思えなかった。そこら辺の犬や猫の方がまだ賢いとすら思うほどである。
「あれだけを見るとそうだろうな」
そう言いながら、アイリスは男が落としていったナイフを拾い上げる。湿った土で所々汚れてはいるが、刃自体にはなんの傷もない見事な手入れがされている。刃物の扱いに相当熟知していなければ出来ない仕事だった。
「これを用意出来る者、そして扱いを教える者がいるということだ。まぁ、同一人物の可能性もあるがな」
「じゃあ、あの男は誰かの指示を?」
「恐らくは洗脳に近い形でな。本能に刷り込んであるのだろう」
おもむろにナイフを構え、数メートル先の木へと思い切り投げつけるアイリス。
「そうだろう? ウートガルザ」
投げられたナイフは気に突き刺さる寸前で弾かれた。まるで見えない壁にでもぶつかったかのように。
そして、アイリスが口にした名。
「クフフ、やはり見抜かれてましたか。変わらぬ慧眼、御見それいたします我が君」
「貴様も、相も変わらず節操なく尻尾を振る男だ」
ウートガルザと呼ばれた男。身の丈二メートルは優に越す長身と、それに見合ったがっしりとした体躯。それを包むのは若干くすんだ白色のロングコート。長い茶色の髪を三つ編みにして、体の前に持ってきているのが特徴的だった。
「ここへ来ているということは、貴女もレーヴァテインを?」
「これのことか?」
アイリスはウートガルザの問いに答えるように、鞘に収められた『聖剣』を見せつける。『レーヴァテイン』と呼ばれたその剣を。
「ほう、すでに手に入れてましたか。あの男はしくじった様ですね。して、死体は何処に?」
『聖剣』を先に取られたというのに、ウートガルザは対して焦っていないようだった。むしろ、洗脳していたらしい男の方を気にしている。
「白々しい。あの男なら逃げたさ」
「ふむ、やはり人間を素体にしたのでは無理がありましたかね……」
わけのわからないことを呟きながら、ウートガルザはどこかへ去ろうとする。本当に『レーヴァテイン』には興味がないのか。だが、ウートガルザは「貴女“も”」と言った。それは他にも『レーヴァテイン』を求めている者がいるということである。
「待て! あの男に、そしてこの島の人々に何をした!」
往人の叫びがウートガルザの背中を叩く。そして、ふと足を止め、つまらなそうに往人の顔を見る。
「ん? ああ、貴方が共に旅をしているという異界人ですか。ふぅむ、なるほど……ロキが興味を示していましたが、なに普通の人間のようですが?」
――ガキィインンン!!!!!
鋭い金属音が木々を揺らす。
アイリスの剣がウートガルザへと叩き込まれたのだ。防御魔法の向こうで薄く笑うウートガルザ。彼の口にした『ロキ』という名にアイリスの心は大きくざわついていた。
「クフフ、失礼。貴女にとっては禁句の名でしたね」
「……奴が、ロキがユキトを狙っているのは本当か?」
「彼の目的までは知りません。でも、連れていけば褒美もあるかもしれませんね」
そう言ったウートガルザが、好戦的な笑みを浮かべ巨大な両刃の剣を抜き放った。




