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68話 疑り深きアサイアラント part4

 「グウウゥウ!!!!」

 獣のような唸りと共にナイフを往人ゆきとの顔に突き立てようと振りかざす男。

 ヤバイ、と思ったそのとき、往人の視界から急に男の顔がぶれて横へとすっとんでいく。アイリスの蹴りが思い切り男の脇腹へ突き刺さったのだ。

 「グゥウェ!?」

 声にならない叫びを漏らしながら地を転がる男。だが、一瞬で体制を整えると再び森の緑へと溶け込んでいく。

 「なんだ!? あいつ……」

 「人間……にしてはヘンな挙動だけどぉ」

 アイリスとリリムスは往人を背にするように庇いながら周囲を見回す。あっという間に姿を隠したので何処に潜まれたか分からない。

 「いいか! 木のそばには近寄るな。社を背にして構えるんだ」

 三人は周囲を警戒しながら、じりじりと社へとにじり寄っていく。しかし、一人だけ森の中へと突撃していく者がいた。

 「あいつ……!」

 クロエはノコギリとバールの二刀流で草木を薙ぎ倒しながら、男を探している。もちろん、そんな場当たり的なやり方で見つかりはしないが。



 「おい! クロエ、君もこっちへ来るんだ! 迂闊にうろつけばやられるぞ!」

 アイリスの忠告も聞かずに手の中の得物を振り回すクロエ。その姿はとても『魔法調査機関』の者とは思えないほど乱暴だった。

 「なぁに、アイツ? あんなアブないヤツとは思わなかったわぁ。ほっといた方がいいんじゃなぁい」

 「そうも言っては……っ!? 危ない!」

 クロエの背後に黒い影が一瞬見えた。往人は考えるヒマもなく、気が付いたら飛び出していた。

 「うおおらぁあああ!!」

 剣を抜いていても間に合わない。力の限り、影の主へと体当たりを喰らわせる往人。勢いよくぶつかって、両者ともに地面を転がる。

 「この……やろう!!」

 正体も分からないまま、往人は馬乗りになって男を殴りつける。握った拳に肉と骨を叩く嫌な感触が押し寄せる。

 「グゥウオオオ!!」

 下敷きになった男もそのままという訳にはいかない。顔へとくるならと、予測し拳を掴んで勢いよく引き込んで地面へと倒れさせる。

 そのまま立場を逆転させ、往人の顔へと欠けた爪を押し当てる。

 「ぐわっ!!」

 思い切り引き裂かれた顔から血が滲む。欠けてほとんど残っていない爪だったからよかったが、野犬や狼みたいな動物だったらもっと悲惨なことになっていただろう。

 「この……っ!! 離せっ!!」

 痛みを堪えながら、迫ってくる爪を何とか掴み取る。だがその感触は人の腕を掴んでいるというような感触ではなかった。


 

 ぐちゅ、という音が聞こえそうなほどに生々しい傷跡だらけの腕。恐らくは傷ついて、それが治りかけてを繰り返しているのだろう。

 「ひぃっ……!!」

 別に、掴んだからどうということはないのだが、思わず往人は掴んだそれを離してしまった。いくら害はない、と分かっていても生理的嫌悪感はそう簡単に拭えるものではない。

 それこそが男の狙いなのだろう。ニヤリと不気味に笑い、不健康そうに黄ばんだ歯を見せつけるように笑う。そのままボロボロの爪で追撃を与えてくる。

 「ガゥウウウ!!」

 だが、瞬時に身を翻すとそのまま森へと姿を消す。その刹那、クロエの手にしたバールが横薙ぎに往人の顔の上を通り過ぎていった。


 「起きろ。このまま追撃をかける」

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