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67話 疑り深きアサイアラント part3

 社はパッと見た限りでは特に荒らされている様子もなかった。

 「魔力の流れも特筆すべき変化はないわねぇ」

 振出しに戻ってしまった。真犯人につながるなにかを求めてここまで来たが無駄足に終わってしまった。

 「どうするぅ? アレがいるけど聖剣を持っていくぅ?」

 「そうしたいのはやまやまだがな……」

 周囲を調べるふりをしながらリリムスが話しかけてくる。アイリスもそれに答えながら社の中にあるであろう『ソレ』を壁越しに見つめる。

 ここまで来たならば『聖剣』は押さえておきたい。だが、リリムスが言うように、それには機関の人間であるクロエが邪魔になる。

 この状況では、どう見ても『聖剣』欲しさに睡眠事件を引き起こしたと捉えられてしまうだろう。

 「とはいえ……一応、中も確認しておくか。巧妙に偽装されているとも限らんしな」

 手にはできなくとも物を見ておくぐらいならば疑われないだろうと判断し、社の小さな扉へと手をかけるアイリス。

 扉には特に施錠もされておらず、何の抵抗も感じずに開いていった。

 「これが……」

 「ふぅん、なるほどねぇ」

 中に納められていた『聖剣』は黒い鞘に収められ、小さな台座に鎮座していた。見た目には何の変哲もないものだったが、見る者の心に訴えかける何かを感じさせた。



 「二人に問う。何を見ている?」

 しげしげと社の中を覗く二人を不審に思ったのかクロエが近づいてきて、二人の間から『聖剣』を見る。

 「これは……奉納してある剣か。なにか不審な点でも?」

 どうやら、これが『聖剣』だとは理解していないらしく、単に二人が真犯人に繋がる手がかりを求めての行動だと思ったらしい。

 「いや、この剣には何もないようだ。他を当たろうか」

 そう言ってアイリスは社の戸をそっと閉める。往人ゆきともそのときチラっと『聖剣』が見えたが、確かに普通の剣といった感じで特別な何かは感じなかった。


 ――ガサガサ!!

 

 周囲の森に何かが蠢く音が、四人の耳に飛び込む。

 聞くが早いか、クロエが音の方向へと飛び出していく。バールを腰から引き抜き、地面へと思い切り叩きつける。

 ガチン! と鋭い金属音が響き、僅かに火花が光るがそれ以上の手応えを得ることはできなかった。

 「くっ……逃したか」

 すぐに周囲を見回し、音の主を探し出す。もちろん野生動物の可能性もあるが、ほんの僅かに見えた影、それは人のように見えたのだ。

 「人間かしらぁ?」

 「分からん。だが魔力は感じなかった」

 『魔族』か『天族』であるならそれなりも魔力を発しているもの。だが、二人にはそれを感じなかった。感知能力が弱体化していることを差し引いても、人間の可能性が高い。

 「どこだ……単に動物ならいいけど」

 剣を抜き、構えを取る往人。アイリスとの『霊衣憑依ポゼッション』により剣術の『知識』は保有している。まだ、それを『経験』に昇華出来てはいないが。

 

 「…………」

 木の影から、その『知識』だけの少年をジッと見つめる者がいた。

 言葉を発さず、ただジッと往人を見つめている。

 「ウゥ……」

 痩せぎすで不健康そうな肌の中年男の口から漏れたのは、小さな呻き声だった。

 まるで手負いの獣が発するような声と、男の姿の乖離には狂気すら感じられる。

 「グウゥ」

 理性をまるで感じない唸りを上げながら、右手に握られたナイフへと視線を落とす。

 「……ガゥウ」

 何かを感じ取ったように、コクリと頷き男は一気に木の影から飛び出し、往人へと襲い掛かった。

 「な……っ!?」


 一瞬で覆いかぶさるように組み伏せられた往人が見たのは、狂気に血走り、腐敗した汚泥のようにどろりとした情念を宿した悍ましい眼球と、キラリと光るナイフの輝きだった。

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